偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
「でもそれは体調が悪かったからでは? 持病があるから病院に向かいたいとおっしゃっていましたよ」


「それなら尚さら、自分の家族に連絡するかフロントに頼むだろう。どうして赤の他人にわざわざ頼む必要がある? ちなみに白坂さんには持病の類は一切ないと家族から報告を受けている」


淡々とした返答に絶句する。


「見合い開始時間は午後一時、白坂さんからこの見合いを断りたいと連絡があったのは午後十二時前だ」


「それって……」


「このホテルに来たが、逃げ出すべき事情ができた。そこで偶然通りがかったお前に頼み込んだというわけだな」


あの女性の態度がすべて嘘だったとは信じがたく、瞬きを繰り返す。

そこでふと大事な事柄を思い出し口を開いた。


「……白坂さんの体調は悪くないんですね?」


「この状況で気にするところがそれなのか?」


「大事なところですよ!」


もし症状が悪化していたらと心配になる。

強く言い返すと、彼は自身の目を手で覆った。


……もしかして怒らせた? 


いや、怒って当然かもしれない。

この人は見合い相手に逃げられたも同然で私はそれに加担した人間だ。


「あの……」


気まずさと申し訳なさでなにを口にすればいいか戸惑う。


「ありえない。騙されてるのに、相手の体調を気遣うなんてどこまでお人好しなんだ」


目の覆いを外した彼が、真っ直ぐに私を射抜く。
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