偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
「白坂さんは以前から好きだった男をどうしてもあきらめられないと言っていた。その相手に求婚されたそうだ」


「ええと……それがお見合いから逃げた理由、ですか?」


「ああ、白坂家は今、予想外の事態に大慌てだろう」


「そうだったんですか……」


あの女性が警戒心むき出しでタクシー乗り場に連れて行ってほしいと懇願してきた理由がやっとわかった。

それでも私が彼女の逃亡を手助けした事実に変わりはない。


この場に私が呼ばれた理由は、ご令嬢を逃がした責任をとれ、ということだろうか?


思い当たった理由に背筋がうっすら寒くなる。


「ところでお前、白坂家の血縁者かなにかか?」


「まさか! まったくの無関係です」


突拍子のない質問に首を横に振る。


「それにしては、白坂家のご令嬢によく似てるな」


「え?」


そういえばあのご令嬢も、私の顔を見た瞬間驚いていた。


「全体的に注意深く見ると赤の他人だとわかるが、目元、雰囲気やちょっとした仕草が白坂家のご令嬢によく似ている」


「……もしかして私に、あなたのお見合いの代理をさせるつもりですか?」


ドラマや小説によくある展開を思い浮かべ、思わず口にする。


「は?」


「だって私は白坂さんに似てるんですよね? あなたはお見合い相手がいなくて困っている。だから……」


「残念ながら不正解だ。先方も俺もご令嬢が自ら逃げたと知っているのだから、代理は不要だ。この縁談は正式に破談になるはずだ。まあ、諸々の話し合いはあるだろうが白坂家とこれ以上の関りはない」


「そう、ですか」


ホッと胸を撫で下ろす。
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