偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
「……白坂さんに好意を抱かれていたんですね」


「は? なんでそうなる?」


眉間に皺を寄せた副社長が聞き返す。


「今、伴侶をご自分で選びたいとおっしゃいましたよね?」


彼女は自身が望んだ女性じゃないの?


「白坂さんとは、元々形だけの見合いをして破談にする約束をしていた。お互い取引先だし、縁談が白紙になっても業務上のメリットを残せばまだ受け入れられやすいからな。次の見合いを用意されるまでの時間稼ぎもできる」


「お見合い相手の女性とそんな話を?」


「ああ。お互い親族にバレるとなにかと厄介だからな」


……なんという策士。


「もしかして白坂さんに想う人がいるって最初から知っていたんですか?」


「もちろん。まさかプロポーズされて、今日すっぽかすとは思わなかったが」


見合い相手に逃げられて、気の毒だと一瞬でも思った私の心を返してほしい。


「ちょっと待ってください。最初から仕組まれていたのなら私が代理を務める必要はないですよね?」


「お前、俺の話を聞いていたか?」


真っ直ぐ射抜くような視線を向けられる。


「婚約者を決めなければいけないと今話しただろう? そもそもお前が彼女を逃がしたのは紛れもない事実だ。なにより俺にはお前が必要なんだ」


至近距離で絡み合った視線が容易く私の動きを封じる。

心臓がドクドクと大きな音を響かせる。

彼がそっと私の髪をひと房掬い上げた。


「俺の見合い相手を逃がした責任をとってくれるか?」
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