偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
「け、結婚だなんて聞いてません!」


夫人が出て行った瞬間、彼に詰めよる。


「今日が期限だと言っただろ?」


「冗談を言わないで!」


怒りのせいか、丁寧な言葉使いが抜け落ちる。

こんな展開はありえない。


「冗談だと思うか?」


長いまつ毛に縁どられた綺麗な目が私を見つめる。



「俺はこの場を乗り切って、会社を継げればそれでいい」


にこりともしない口元。

彫刻のように整った面差しからは感情が読み取れない。


「それは副社長の都合でしょ。形だけだと言ったじゃない」


「思った以上に母の心象が良かったからな。気が変わった」


「勝手すぎます!」


「状況を読むのは大事だろ。言っておくが、お前に逃げ道はない。俺と結婚する以外にはな」


私の必死の抗議も虚しく、勝ち誇ったように宣言されて、心が、拳が怒りに震えた。


「こんな話、私の両親も絶対に反対します」


いい年をして、親を引き合いに出すなんて情けないとは思ったが、それくらい私は切羽詰まっていた。

こんなにも傲慢で強引な人と結婚なんて絶対にお断りだ。


自分が会社を継ぐためだけに私と結婚?


今日出会ったばかりなのに?


どうかしている、絶対に正気じゃない。


横暴すぎる。
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