偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
「嘘でしょう、奈緒美さんではないの? 背の高さも同じくらいだし、声だってよく似ているのに……」


私の身長は約百五十八センチほどだが、私の隣に立つ彼の身長は低く見積もっても百八十センチはゆうに超えているだろう。

その足の長さにはため息しか出ない。


「まったくの別人です。白坂さんは今頃ご自宅にいらっしゃいますよ」


「……ちょっと待ってちょうだい。それはどういう意味かしら?」


副社長によく似た整った面立ちを歪めて、栗本社長夫人が問う。


「先ほど父さんにも電話で説明しましたが、白坂さんには大切に想う方がいらっしゃるんです」


「そんな話は初耳よ。白坂社長夫人はなにもおっしゃっていなかったけれど?」


完璧にアイラインが引かれた夫人の目が細められる。

明らかに副社長の報告を疑っている様子だ。


「白坂さんがご家族に話していなかったか、隠されていたんでしょうね」


「なんのために?」


「それは母さんが一番よくご存知では?」


しれっと言い返す息子に一瞬反論しかけた夫人は、なにか腑に落ちたのか肩を竦めた。


「まあ、あの厳格なご両親相手ならそうでしょうね。でもあなたは納得しているの? ずっとお見合いを拒絶していたのにこの縁談だけはやけに乗り気だったでしょう? 奈緒美さんを伴侶にと望んでいたのではないの?」


「いえ、違います」
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