偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
翌日、出勤すると渚に店長が呼んでいると声をかけられた。


「藍、なにかあったの?」


「うん、ちょっとね。ごめん、落ち着いたら話を聞いてくれる?」


「もちろん。ひとりで抱えこんじゃダメよ」


親友の優しい忠告を胸に事務所に向かうと、店長は電話中だった。


「すみません、斎田がまいりましたので替わります」


そう言って店長は電話の保留ボタンを押す。


「おはよう、斎田さん。急に呼び出してごめんなさいね。社長から電話なの。なにか重要な話があるみたいよ」


「わかり、ました」


ザワリと胸の奥が嫌な予感に震えた。

きっと昨日の件だろう。

わざわざ仕事中に連絡してくるなんて、栗本副社長となにかあったのだろうか。

貴臣くんに私の気持ちと昨日の経緯を蘭子さんに伝えておくと言われたけれど、それが関係しているのだろうか。


「電話が終わったら持ち場に戻ってね。朝からいったいどうしたのかしら?」


訝しむ店長に、曖昧に微笑むしかできなかった。

部屋を出ていく店長の後ろ姿を見送ってから、受話器を取り上げた。


「おはようございます、社長」


『おはよう。びっくりしたわよ、すごい展開ね。貴臣には無理強いするな、と何度も言われたけれど……あなたはこの縁談をどう思っているの?』


「ただ驚いて、どうすればいいか迷っています」


『まあ、そうよね。今日電話したのは先方と話した内容を伝えようと思ったからなの。朝から突然呼び出してごめんなさいね』


昨夜の貴臣くんとの会話が頭を掠める。
< 36 / 208 >

この作品をシェア

pagetop