偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
無遠慮に値踏みをされているような視線が鋭く、居たたまれない。
噂の的になっている人物をそっと盗み見ると、こんな状況は日常茶飯事というかのように平然としている。
「恋人ではなくて婚約者だと訂正したいところだな」
耳元近くで囁く声にピクリと身体が揺れる。
思わず彼を見つめると、色香のこもった目に見返されて息を呑む。
「なぜ……」
「事実だろ? まあ、可愛い婚約者を無遠慮に見られるのはいただけないが」
ほんの一瞬眉間に皺を寄せ、まるで親密な恋人同士のように長い指を私の指に絡めてくる。
なんで、こんな真似をするの?
うまく返答できない私を気にするでもなく、副社長は席にスムーズに案内してくれた。
土曜の午後という時間帯のせいか、サロンの周囲の席は埋まっている。
どうやら予め手配してくれていたようだ。
私だけが彼の一挙一動に翻弄されている。
「――それで、覚悟は決まったか?」
手際よくふたり分の注文を済ませた副社長が軽く頬杖をついて口を開く。
ごくりと喉が鳴った。
「あ、の……」
発した声が情けないくらいに掠れる。
きちんと返事をするために来たんだからしっかりしなさい、と心の中で自分を叱咤する。
膝の上に置いた手をギュッと強く握りしめると、手の中は嫌な汗でじっとり湿っていた。
噂の的になっている人物をそっと盗み見ると、こんな状況は日常茶飯事というかのように平然としている。
「恋人ではなくて婚約者だと訂正したいところだな」
耳元近くで囁く声にピクリと身体が揺れる。
思わず彼を見つめると、色香のこもった目に見返されて息を呑む。
「なぜ……」
「事実だろ? まあ、可愛い婚約者を無遠慮に見られるのはいただけないが」
ほんの一瞬眉間に皺を寄せ、まるで親密な恋人同士のように長い指を私の指に絡めてくる。
なんで、こんな真似をするの?
うまく返答できない私を気にするでもなく、副社長は席にスムーズに案内してくれた。
土曜の午後という時間帯のせいか、サロンの周囲の席は埋まっている。
どうやら予め手配してくれていたようだ。
私だけが彼の一挙一動に翻弄されている。
「――それで、覚悟は決まったか?」
手際よくふたり分の注文を済ませた副社長が軽く頬杖をついて口を開く。
ごくりと喉が鳴った。
「あ、の……」
発した声が情けないくらいに掠れる。
きちんと返事をするために来たんだからしっかりしなさい、と心の中で自分を叱咤する。
膝の上に置いた手をギュッと強く握りしめると、手の中は嫌な汗でじっとり湿っていた。