偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
「へ、返事をする前に確認させてください」


「なにを?」


「本気、なんですか?」


このありえない結婚話を、と皮肉めいた言葉が漏れそうになり慌てて唇を噛みしめた。


「プロポーズは一生に一度だけと決めている」


「え?」


「自分の判断は後悔しない。俺はお前を選んだ」


「……選ばれた気がしないのですが」


元々はその場しのぎの、取繕った求婚でしょう? 


お互いを想いあっての始まりじゃない。

私の返答に一瞬虚を突かれたかのように目を見開いた彼は、ハハッと声を上げる。


「お前のそういう歯に衣着せないところが気に入ったんだ。意外性があって面白い」


「面白さで結婚相手を決めないで下さい」


「ずっとともに生きていくんだから、そこは重要だろ? ろくに会話もできない相手とは暮らせない」


突然真面目な口調に切り替わった副社長に戸惑いを隠せない。


「でも私は、栗本副社長についてほとんどなにも知りません」


「これから知っていけばいい。時間は十分ある」


「そういう話ではありません。相手を知らないのにどうやって将来を考えるんですか」


プロポーズの返事の場とは思えない雰囲気に歯嚙みしたくなる。

けれどなぜかこの会話のテンポを不快に感じていない自分がいる。

副社長も私の返答を楽しんでいるように感じるのは気のせいだろうか。


「知らないからこそ、知っていく喜びがあるだろ? 最初からすべてわかっていたら面白くない」


イタズラっ子のように口角を上げた副社長が私を見据える。

だからなんで面白さが基準なの、と心の内で悪態をつく。
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