偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
「結婚する人とは、信頼関係を築きたいんです」


「同感だ」


「お互いの生活や仕事を大事にしたいです」


「当たり前だろ。仕事を続けたいなら続ければいい」


副社長は肩を竦めて迷いなく告げる。


「あからさまに浮気されたり、恋人を作られたくないです」


「もちろん。わざわざそんな醜聞をまくつもりはない」


「離婚は……」


「する予定はないな」


潔いくらいに言い切られる。

譲れない条件を突きつけたつもりなのに、意外なほどあっさり承諾されて焦る。


「私との結婚はあくまでもご実家の条件のためですよね? ほとぼりがさめたり、もし好きな人ができたら……」


「――へえ、そんな相手がいるのか?」


抑揚のない声が耳に響く。

なぜだか周囲の気温がグッと下がった気がする。


「いません! 私ではなくて副社長の話です」


「俺はお前以外に結婚したい相手はいない。女性に生活を干渉されるのも、気持ちの押しつけやアピールも大嫌いだ。ほとぼりがさめるなんて事態には絶対にならないから安心しろ」


語調の強さと毅然とした反応に驚く。


これは結婚しても過干渉はするなという警告なの?


「俺を選べ」


そっと伸ばされた指が私の指を軽く握る。


形だけのプロポーズなのに、なぜこの人に触れられるとこんなに心が乱れるの?


副社長が私の指を自身の唇に当てる。

指先に落とされた小さなキスに肩が跳ねる。

慌てて引き抜こうとするとさらに力を込められる。

絡みつく指から伝わる体温に動揺する。
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