偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
「――そうか、決めたんだな」


「うん、事後報告になってごめんね」


小さく謝罪の言葉を口にすると、眼前の貴臣くんが眉尻を下げて首を横に振った。

ホテルを出た後、彼への言い訳を本物にするためデパートで夕食の買い物をした。

普段なら目移りする美味しそうな総菜の数々も今日はなぜか目に留まらない。

この期に及んでまだ、自分の選択が正しかったのかと逡巡してしまう。

買い物を済ませ、自宅に向かう道中で貴臣くんから電話がかかってきた。

私が副社長との結婚を決めたと伝えると『今から会いに行く』と即答された。


「それにしても、嫌がっていたのになんで気が変わったんだ?」


最寄り駅前のカフェで待ち合わせる。

ふたつのテラス席とカウンター席、テーブル席が四つのこのカフェは私のお気に入りの店だ。


「あのときは結婚の実感がわいてなかったの。それに貴臣くんだってこの縁談をすすめてたでしょ」


幸いにも私たちが腰を下ろしたテラス席周辺にほかの客はいなかった。


「結婚相手としては好条件だと言ったんだ。結婚しろと言ったわけじゃない。おおかた、頑固で正義感の強いお前のことだから色んな人間の立場を考えたんじゃないのか?」


「……違うよ」


貴臣くんの鋭い指摘にほんの少し身体が強張る。

でもこの結婚を受け入れたのは自分の意思だ。
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