偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
『お前にひとめ惚れをした、と言って両親を説得する』


『俺の両親は恋愛結婚だからな。理想的な恋物語を披露すれば問題ない』


『なにを言われてもただひたすら肯定して、笑っていろ』



少し前に耳にした、驚くほど傲慢な命令の数々が脳裏に蘇る。

けれど、まさか結婚宣言をされるなんて予想もしなかった。

お見合いを乗り切るだけだと言われていたのに、これでは話が違う。


「捜し続けて、一カ月前に偶然彼女を見つけたんです。それでこの機会を逃してはいけないと思ったんです」


恥ずかしげもなく滔々と作り話を披露していく。

私に再会して、すぐに結婚を前提とした交際を申し込んだのだと、それはもう情熱的に。

さらにはこの短時間でどう調べたのか、私の素性までも事細やかに説明していく。

やはり大企業になると情報網が優れているのだろうか。

というより、ただの演技なのにどうして私の素性を晒す必要があるのだろう。


彼が副社長を務めている栗本ホールディングスは化粧品事業を主軸にし、国内業界シェア第一位を誇る日本有数の大企業としてその名を世界中に轟かせている。

近年は海外にも積極的に出店し、自社商品を各国々の女性たちに好まれるように改良して販売している。

売れ行きは好調で美容に関連した栄養ドリンクや食品販売も顕著だ。

研究所や販売会社、子会社も含めると規模は相当なものになる。

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