偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
隣に立つ彼に、今はもう呆れを通り越してため息しか出てこない。

このバカげた話に耳を傾けてくださる夫人への申し訳なさで胸がいっぱいになる。


「どうして今日まで黙っていたの。白坂さんとの縁談を決める前に言うべきでしょう」


「白坂さんには真実を伝えています。祝福してくださって、ご両親に本心を話すとおっしゃっていましたよ」


「そういう問題じゃありません!」


「もちろん、業務に関わる話もそのままです」


にっこりと口角を上げるその姿はまるでどこかの王子様のように優雅だ。

けれど、その目はちっとも笑っていない。


「まったくなんて話なの……あなたはいいかもしれないけれど、斎田さんのお気持ちは? 突然こんな場所に引っ張りだすなんて失礼もいいところですよ」


ごめんなさいね、と優しい声で謝罪される。


「いえ、私は……」


「藍は俺との結婚を前向きに考えてくれています」


「あなたには聞いていません。おかしいと思ったのよ。時間になっても白坂夫人もどなたもいらっしゃらないし」


「すみません。藍をぎりぎりまで説得していたので」


いけしゃあしゃあと述べるこの人は本当に策士だ。

私の背中にはさっきからずっと冷たい汗が流れているというのに。
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