偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
「栗本様、お待ちしておりました」


エレベーターが到着した途端、大勢の女性店員に迎えられた。

高い天井と、広く豪奢な内装に圧倒される。

頭の高い位置でシニヨンを結った、細身の女性が一歩前に出た。


「斎田様、中西(なかにし)と申します。本日はよろしくお願いいたします」


「斎田藍と申します。あの……」


戸惑う私に中西さんはニッコリと口元を緩める。


「準備は整っておりますので、どうぞこちらへ」


「ありがとう、中西さん。じゃあ藍をお願いします」


副社長が訳知り顔で私を送り出す。


「はい、とてもお可愛らしい方ですね」


「俺の大切な人だからね」


「心得ております」


目の前で繰り広げられる会話についていけず、副社長に視線を向ける。


「中西さんはいつも俺に服を見繕ってくれる方だ。好きなドレスを選んでおいで。俺も自分のスーツを確認してくる」


「どうぞお任せください。斎田様、ぜひお好みの色や形を教えてくださいね」


柔らかな中西さんの声に、ほんの少しだけ緊張が和らぐ。

副社長と別れ、中西さんとともに店内奥へと足を進める。

案内された試着室も広々とした場所だった。

室内には小ぶりなテーブルやソファまである。


「実はあらかじめ栗本様に斎田様のイメージをお伺いしていたんですよ」


「私のイメージ、ですか?」


「ええ。とても嬉しそうなご様子で詳細に教えてくださって……あのような栗本様のお姿は初めて拝見しました。斎田様をとても大切に想われてるんですね」


中西さんの言葉に咄嗟に反応を返せなかった。

そんな私の様子を訝しみもせず、中西さんはドレスの説明を始めた。
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