偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
「斎田様は日焼けもされていないので淡い色合いもお似合いですね」


「お恥ずかしい話ですが、なにをどう選べばいいかわからなくて……」


思わず情けない本音が口をつく。

綺麗な洋服や可愛い小物類は大好きだけど、それはあくまでも普段の話で、公式なパーティー衣装となると話は別だ。


「わかります、目移りしますよね」


「あの、栗本副社長は何色のスーツを選ばれたのですか?」


私の問いかけに中西さんが隣に立っていたもうひとりの女性店員とうなずきあう。


「明るい紺色ですわ。斎田様のお名前に縁がある色をとおっしゃって」


フフと中西さんが小さな声を漏らす。

その返答に目を見開く。


私に縁がある?


紺色って……まさか藍色をイメージしてくれたの?


私の、ため?


「栗本様がこちらに女性を連れてこられたのも、女性のドレスをご注文されるのも初めてで従業員一同とても驚くと同時に、斎田様にお会いできるのを楽しみにしておりました」


内緒ですよ、と中西さんは茶目っ気たっぷりに微笑む。

教えられた情報に胸が詰まった。


初めて? 


本当に?


温かい彼の配慮に鼻の奥がツンとした。

素っ気なくて、私に関心があるとは思えない反応が定石の彼からは想像がつかない。

こんなのは反則だ。
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