偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
「俺のために考えてくれたんだろ?」


気分を害した様子もなく、ふわりと相好を崩す彼から視線を外せない。

こんなに柔らかな表情は初めて見る。

中西さんは気を利かせてくれたのか、部屋の外で待機している。


「でも……」


「藍が俺の好きな色を纏ってくれるのは嬉しい」


照れもせずに言われて、頬が一気に熱をもつ。

すっと手の甲で軽く頬を撫でられてピクンと肩が跳ねた。


「もっとよく見せて」


一気に距離を詰めた彼が、両腕で私の腰を抱く。


「……細くて小さくて、折れそうだな」


「折れないし、細くないですよ」


私の返答に少しだけ眉尻を下げ、腰にまわした腕をほどく。

私の手首を緩く握った彼は手首に小さくキスを落とす。

チリと一瞬感じた痛みにも似た熱はなんだろう。


「か、櫂人さん」


甘い行為に上擦った声が漏れる。


「なに?」


色香のこもった眼差しが私を捉える。


私は恋愛対象外の、お飾りの婚約者でしょう?


初対面のときとはまったく違う甘い態度に、頭が混乱する。
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