偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
問われて最初の出会いを思い出す。

確か、ずっと恋焦がれていたと彼は口にしていた。

私の表情の変化で理解したのか、副社長が畳みかけてくる。


「俺たちは“想いあって”婚約したんだ。周囲に疑われるわけにはいかない」


「それじゃ、どうすれば……」


「引っ越しをしろ」


「はい?」


引っ越し?


「一刻も早く入籍したい婚約者同士がともに暮らす、自然な流れだろ」


「どうしてそんな解釈を? 想いあいながら遠距離恋愛をしている恋人同士だって大勢います」


「一般的な話は聞いていない。俺は仕事でなかなか時間がとれないし、周囲に仲睦まじさをアピールできる時間は限られる」


私の反論を一蹴した彼がキッパリと言い放つ。


「そこまでする必要がありますか?」


「世間の目は、俺たちが思う以上に鋭い。それに一緒に暮らせばお互いについての理解も深まるだろ」


「でも、いきなり言われても」


「昨日今日で思いついたわけじゃない。ずっと考えていた」


先ほどまでのどこか呆れたような声から一転、真摯な声で告げられ目を見開く。

絡めた指を持ち上げた彼が、そっと私の手の甲にキスを落とす。


「俺はお前と一緒に暮らしたい」


誘惑するような甘い視線が私を射抜く。


「結婚するまで待てない」


……本気で言っているの?


こんなのまるで、真剣に口説かれているみたいだ。

頬に、全身に、熱が込み上げる。

高鳴る鼓動を抑えきれない。

喉がカラカラに乾いてうまく言葉を紡げない。
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