偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
「驚いたでしょう? 無粋な息子でごめんなさいね」


「あ、いえ……」


「あなたは櫂人が将来の伴侶で本当に構わないの?」


「は、はい。私にはもったいないくらいの方です」


……色々な意味で。


そして、できるなら今すぐここから逃げ出したい。


思わず漏れそうになった本音を、頬の内側を噛みしめてぐっとこらえる。


「それならいいのだけど……」


「母さん、ひとり息子の結婚を祝福してくれないの?」


「驚いているけれど、祝福しているわよ。せっかくだから今日はふたりで食事でもしたらどう? 今後についてお父様と相談したいし、私は帰らせていただくわ」


「母さん、ありがとう」


「あ、ありがとうございます」


「斎田さん、今度ゆっくりお茶でもしましょうね」


そう言って踵を返す栗本夫人に小さく頭を下げた。


――このまま、頭を上げたら、時間が巻き戻っていればいいのに。


いったいなんでこんな事態に陥っているのか。

私はただ、アフタヌーンティーを楽しもうとしていただけなのに。

いくら甘い誘惑があっても今日ここに来るべきではなかったと、もう何度目になるかわからないため息が漏れた。
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