偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
そんなこんなで現在の私は、夫となる人の自宅で荷解きをしている真っ最中だ。

手際のよい櫂人さんは私が独り暮らしをしていた部屋をさっさと解約し、引っ越し日をあっという間に決めてしまった。

引っ越し宣言をされた初デートの日から、一カ月も経っていない。

さらには五月半ばの婚約発表パーティーまであと半月、それからひと月以内には入籍すると改めて告げられた。

私の意見や気持ちはまるっきり無視だ。

横暴だと心の中で何度も叫ぶがきっと声に出したところで意味がないだろう。

ここまで来るともうあきらめさえ感じる。

この人は自分の意見を曲げたり、決めた事柄に関して自信をなくしたりしないのだろうか。


『俺の帰宅時間は不規則な上に深夜になる場合がほとんどだ。お前にはお前の仕事や生活リズムがあるし、俺に構う必要はない。干渉されるのは嫌いだ』


引っ越してきた初日に、突き放すようにリビングで言われた。

最近の甘めの態度と相反する物言いに戸惑うも私たちの関係性では仕方がない。

心の中で何度もため息をついた。


『この同居は、お互いをよく知るためのものでもあるんでしょう?』


『ああ』


『……だったら私は、櫂人さんの毎日をきちんと知りたい』


いくら干渉が嫌でも、形だけとはいえ夫婦になるのだから最低限の歩み寄りは必要なはずだ。

今後彼が価値観の違いや過干渉を鬱陶しく感じる可能性だってある。

そうすれば同居解消、ひいてはこの結婚自体が破談になるかもしれない。

そのほうが夫に恋をしている真似事をするよりよほど簡単だろう。
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