偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
「藍ちゃん、おはよう」


「おはようございます、田畑(たばた)さん。処方箋をお預かりしますね」


三月の半ばを過ぎた午前九時半すぎ。

近くの総合病院での診療を終えた患者さんたちがここ、ハナ薬局五反田店を訪れる。

決まった曜日と時刻に通院している患者さんは多く、来月七十歳を迎える田畑さんもそのひとりだ。


「あれ、そういえば藍ちゃん。今週は京橋支店に行くって言ってなかったかい?」


「覚えていて下さったんですか? 研修もあって日程が変更になったんですよ」


「おや、そうかい」


急な欠勤のヘルプや研修、勉強会など様々な理由で他店に赴く場合は多々ある。

いつものように世間話をし、田畑さんが待合室のソファに腰を下ろしたのを見届ける。

それから店内奥に足を向けると、同期で親友の深見渚(ふかみなぎさ)に声をかけられた。

大きな丸い目に顎下で軽く巻かれた明るい茶色の髪がとても可愛らしい。


「藍、これ来月のシフト表。店長が確認しておいてって」


「了解、ありがとう」


「明日の休暇は是枝(これえだ)さんとデート?」


「デートじゃないわよ」


ニッと口角を上げて話しかけてくる同期に反論する。
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