偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
物心ついた頃から俺の周囲には多くの女性がいた。

整っていると、世間一般から評価される俺の外見と背景だけに惹かれ、誘ってくる。

幼い頃は戸惑いもあったが成長するにつれ対処方法を学び、処世術も身に着けた。

だが正直そんな日々にはずっと辟易していた。

甘い言葉の裏にある棘と毒を見抜く術だけが上達していく。

空虚な心を抱え、自分の中で境界線のような壁をつくり、女性と接するようになった。

綾は例外だが、彼女の目に時折浮かぶ熱に答える気持ちはさらさらない。

綾を妹以上の存在に思ったことは一度もない。

期待を持たせないよう上田家にも本人にもはっきり線引きはしてきた。

それなのに藍に対して攻撃的な様子をわずかに滲ませる綾には今後警戒しておく必要がある。


大事にしたいと願う女性はひとりしかいない。

俺が長年築き上げてきた防御壁をいとも簡単に壊した事実に、可愛い婚約者はきっと気づいていない。

俺をこれほどまでに翻弄している現状にも。


甘やかしたい。


笑っていてほしい。


触れたい。


湧き上がる際限のない欲求に戸惑う。
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