偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました

翌日、朝食の準備をしていると櫂人さんがダイニングに姿を見せた。


「藍、おはよう」


「おはよう、櫂人さん」


「昨日は一緒に食事をとれなくてごめん」


「ううん、仕事だし気にしないで」


「……あれ、申し込むのか？」


そう言って彼は昨夜私が見ていたチラシに目を向ける。

彼が気づいていたことに驚く。


「あ、うん。植栽活動に参加したくて」


「花が好きなのか？」


「専門的な知識があるわけじゃないんだけど、花は好きなの。この辺りの植栽ってとても綺麗に手入れされていて、いつも元気をもらっているから少しでも手伝いが出来たらって思ったの」


「街の景観を守るのは大切だからな。うちの会社も似たような活動に参加しているぞ」


コーヒーを注ぎながら、彼が思い出したように口にする。


「そうなの？　素敵ね」


「俺は参加経験がないが」


「一度参加してみたら？」


「花なんて、小さい頃に植えたきりだ」


だからよくわからない、と自嘲気味に呟く櫂人さんに思わず返答する。


「そんなの気にせず、教えてもらえばいいだけよ。大事なのは花を愛でる気持ちだったり、景観を守りたいって気持ちでしょ？」


「……お前はたまに突拍子もない発言をするな」


どこか呆れたような口調の櫂人さんに、図々しかったかと気になったが、意外にも彼は面白そうな表情を浮かべていた。


「俺を強引に誘う女なんて、お前くらいだよ」


ふわりと相好を崩して、私が用意した朝食を食べる姿になぜか心がざわめく。