丸い課長と四角い私
「一年、アプローチしてるんだよ?
そろそろいい加減に気づいてくれない?」

「あの、えっと?」

再びはぁって、蔵田課長の口からため息が落ちる。

「いくら部下のメンタルケアも仕事のうちだからって、好きじゃなきゃ、ここまでこまめにケアしたりしないよ」

「あの、でも、いっつも私のこと、莫迦にしてますよね?」

「だって君、すぐムキになって面白いから」

……え?
そんな理由?

「まあ確かに、本とか食とかあわないことは多いけど。
でも、君にだったらあわせてもいいかなって思うし」

「はあ」

確かに、いつも意見はあわないけれど。
なんだかんだ云いながら、私の希望を通してくれていた。

「それに、君がおいしそうに食べてる方が、自分の好きなもの食べてるときより嬉しいし」

「はあ」

「だからさ。
……鳴海。
いい加減、俺に落ちろよ」

急に口調が変わった蔵田課長の指が顎を持ち上げ、レンズの向こうの、燃えるような瞳が私を見つめる。
どこを見ていいのかわからなくて視線を彷徨わせたものの。

「どこ見てるんだ。
俺を見ろ」

おそるおそる、蔵田課長と視線を合わせる。
< 17 / 35 >

この作品をシェア

pagetop