ふたりぼっちの孤城
「え、何で」


何で今なの。

それを言う前に山吹が続けた。


「お嬢様を悲しませたからです。それ以外の理由がありますか?」


山吹は何でわたしが疑問に思うのか不思議そうな顔をしている。

山吹の中ではそれが当たり前なのだと知った。

山吹はわたしの肩を掴み、目を合わせた。真っ直ぐな目をしている。

それだけじゃなくて、言いようのない苛立ちも混ざっていた。

苛立ちはわたしに向けられていない。

じゃあ、柊に?

山吹はそのまま話し始めた。


「まず一緒に買い出しに行ったのは情報収集のためです。柊は信頼した人には口が軽くなる傾向にあるので、親しみを抱きやすいように会話をしてきました。お嬢様の好物の話をしたのもその一環です。無許可でお嬢様の好みのお話をしたことは大変申し訳ありません。次に手を握ったと言っても、通行の妨げになるようなところに柊がいたので移動させただけです。特別な意味なんて全くありません。婚約の話が出ているようですが、柊の気持ちに応えるつもりも初めからありません。私の行動理念は貴方の幸せであり、貴方が幸せであることが私の幸せだからです」


山吹の言葉がすぅっと頭に入ってきて、安堵感が込み上げてくる。

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