ふたりぼっちの孤城
「貴女の役目は終わりました。どうぞご実家に帰って令嬢として生きてください」
「ですが、自分は専属として「貴女の代わりぐらい幾らでもいるんですよ」


きっと専属メイドとして働いているということは柊にとってアイデンティティの1つだったのだろう。

それを代わりがいるとあっさり言われ傷ついたようだ。


「理人さん!何でっ・・・」
「何でって、何がです?もしかして私が貴女に好意を寄せているとでも思いました?おめでたいですね」


本気でそう思っていたのか。

裏切られたとでも言いたげな目で見てくる。

だがその表情にも薄らと浮かんだ涙にも感情を揺さぶられることはなかった。


「私が愛しているのはたった1人────あの方だけです」


内緒話をするようにそっと耳元で低く告げた。

すると柊は表情をなくした。

もう柊に用はない。

動かない柊を放っておいて最後に藤の元に向かった。

藤には柊のような後ろ盾がないため簡単に遠方に飛ばすことが出来た。



全ての後始末を終え彼女の部屋の掃除に向かおうとしたが、その前に姉に捕まってしまった。


「やってくれましたね、理人」


その声は冷めきっていて実の弟に向けるものではなかった。

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