ふたりぼっちの孤城
ないはず。

あったとしても、毎日会っているんだから、何かあったってわたしが直ぐに気づくはずだ。

だから有り得ない。

有り得るわけが・・・────。


『わたしと違って、貴方は自由でしょう?』


(いや、ある)


その片鱗を思い出しただけで心が冷え、身を震るわせた。

わたしが初めて山吹を拒絶し、わたしと山吹の信頼関係が壊れかけたあの期間。

思い出すだけで消えたくなる過去だ。





きっかけはほんの些細なことだった。

今思えばあれも杏の策略だったのだろう。

御手洗に行った後社交パーティの会場に戻ろうとしたとき、メイドの会話が聞こえたのだ。


「理人さんって何で椿お嬢様に仕えているのかしら」


わたしと山吹の名前が聞こえ、つい足を止めてしまった。


「さぁ、あの方なら御当主様の専属にだってなれたはずなのにね」


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