ふたりぼっちの孤城
むしろ有無を言わせない笑みを向けてきてわたしが気圧された。


「じゃあちゃんと前を向いていてくださいね」
「・・・分かっているわよ」


確かに髪のセット中に下を向いていたわたしが悪いのでここは素直に謝った。

でも首は辞めて欲しい。本当に。

脇やお腹、足の裏などは触られてもくすぐったくはないが、昔から首だけはどうしても受け付けられないのだ。

山吹はそれを発見するや否や、わたしの注意を引く時はこうして首に触れてくる。

人前でやられないだけマシだとは思うけれど、わたしの専属執事としてこの態度はどうなんだろう。


「ところで先程は何をそんなに考えられていたんですか?」
「えっ」
「ご自身の胸元を凝視されておられましたが、何か不都合でも?」


そんな風に見られていたのでは、山吹からしたらわたしは痴女以外の何物でもないだろう。

その事に気づいて硬直していると、山吹が心得たように大袈裟に頷いた。


「もしかして大きさを気にされているんですか?大丈夫ですよお嬢様。世の中にはお嬢様ぐらいの慎ましいサイズを好まれる方も一定数います」
「や、山吹!!!!!」
「私が保証します」


確かにわたしは人よりも胸の脂肪が少ない。
それは分かっている。

コンプレックスまではいかないが、街に出るとちょくちょく不安になる程度には気にしていることだ。

正直山吹に保証されたところでだからなんだという話だし。


(全く山吹じゃなかったらクビにしてるわよクビ!!)


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