ふたりぼっちの孤城
わたしは何も分からなくてもどかしいのに、日に日に山吹の機嫌が良くなっていくのは何故だろうか。

しかも義両親と会う1週間前あたりからわたしの物を整理し始めたのもよく分からない。

まぁ要らない物をわざわざ残しておく必要はないから了承はしたが。

テンションが無駄に上がっている分、力を持て余しているのかもしれない。

今朝だって「おはようございます椿。待ちに待っていた日が来ましたね!」とご機嫌でわたしを起こすや否や、社交パーティーに行くときよりも念入りに全身マッサージをしてくれた。

用意してくれたベルテッドワンピースだって、いつもより良質な生地が使われていると触った瞬間に分かった。

髪型はいつも通りハーフアップだが、つけているバレッタはわたしの名前と同じ、椿の花の形をしている。

山吹がこれらを他人と会うときに選ぶなんてよっぽどだ。

普段だったら自分以外に見せるなんて有り得ないと絶対に反対するのに。

今だって義両親を先にお出迎えすると言って行ってしまった。

わたしは自室で待機中。

ここまで焦らす必要はあるのだろうか。

どうせわたしの仮初の婚約者を紹介するだけなのに。

下手に動いてホコリがついてはいけないのでソファーに座って時計を眺めていると、コンコンコンとノック音が3回聞こえた。

山吹が迎えにやってきたのだ。


「もう、遅いじゃな・・・い・・・・・?」


ドアを開けるなり文句を言おうとしたが、山吹の格好を見て開いた口が塞がらなくなった。

< 168 / 190 >

この作品をシェア

pagetop