ふたりぼっちの孤城
山吹は何故か執事服ではなく、良いところの令息が着るようなスーツを着ていた。


「山吹、その格好は・・・?」
「行けば分かりますよ」


そう言いながらわたしに腕を差し出してきた。

手ではなく、だ。

腕を組むなんて主従関係ではなく恋人同士がやることだ。

それを山吹は平然と行おうとしている。

義両親に会いに行くのにそれでいいのだろうか。


「? どうされました?」
「こんなことしていいの?」
「私がここにきて問題行動を起こすと思いますか?」


思わない。

首を振ると山吹はニコーっと笑いながら腕をまた前に出した。

仕方ない。覚悟を決めて全部山吹の好きにさせよう。

相手が誰であろうと、最終的には山吹の独擅場になるのだから。





「入れ」


山吹がノックをした後に聞こえた声のせいで、身体が強ばるのが分かった。

その正体は長らく声を聞いていなかった父のものだった。

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