ふたりぼっちの孤城
「そんなに理人さんばーっかり見ているからお友達が一人もいないんじゃないの?椿お義姉様」
「・・・杏(あんず)」
篠原家の情報を思い出していただけなのだが、義妹である杏の目にはそう映ったらしい。
今日も今日とてぞろぞろと取り巻きを引き連れている。
(うーわぁ・・・)
物思いに耽っていて気配に気づかなかった。
いつもだったら近づいて来そうになったらそっと逃げるのに。
杏は体をくねらせて上目遣いでわたしを見てきた。腰周り痛そう。
「あーあ理人さん可哀想。不出来な義姉なんかの専属にされちゃって!優秀な理人さんには同じく優秀なわたくしがお似合いだと思うの。みなさんもそう思わない?」
杏が問いかけると周りが同調して援護射撃を始めた。
杏は山吹の容姿をたいそう気に入っており、ことある事に自分の専属執事にしようと策を練っている。
わざと「理人さん」と呼んで親密さを周囲にアピールしているのもその1つだ。
効果は如何程か知らない。
だが山吹を杏に渡すわけにはいかないので、眉を少し歪め不機嫌そうに言い返す。
「貴方が、優秀・・・?義姉に敬語も使えないのに?」
「なっ」
「貴方の言う通り山吹は優秀だわ。だからしようと思えば専属を変えることなんて簡単に出来るのよ」
これは以前山吹が言っていたことだ。
杏本人は知らないが、実際に杏の策をことごとく潰して回っているのはわたしではなく山吹だったりする。