ふたりぼっちの孤城
てっきり婚約者(仮)と仮初の結婚を勧められると思っていた。

だが違った。

篠原夫妻には跡継ぎがいないのだから、婚約のしようがない。

じゃあ山吹は何をもって2人を『義両親』と表現したのだろうか。

それか2人は仲介人で義両親は別にいるとか。

考えを巡らせていると、夫人と目が合った。


「ふふ。理人と仲が良さそうで安心したわ」


(理人!?!?)


普通他家の使用人を下の名前で呼ぶことなどない。

公共の場で下の名前────しかも敬称なしに呼んでいいのは実の子ぐらいだ。

それに夫人がわたし達に向ける目は慈愛に満ちている。

その目には何か深い意味がありそうだ。


「はい。私と椿さんはいつも仲睦まじく暮らしております」


わたしが困惑していると山吹が代わりに答えた。

これも普通ならありえない。

いくら山吹がわたしの専属侍従と言えど、主人の許可なく勝手に発言することは許されていない。

だが篠原夫人はそれを咎めることなくにこりと微笑んだ。


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