ふたりぼっちの孤城
「今日は寝癖が目立つので緩くお団子に致しますね」
「宜しく」


山吹は滅多にヘアアイロンを使わない。前に何でか聞いたら、「お嬢様の綺麗な髪が散り散りになってしまったら死んでも死にきれないから」らしい。

今どきそんなことにはならないと思うけれど、わたしはどっちでもいいからそれ以上聞くのは辞めた。

ちなみにお団子だと言ったが正確にはハーフお団子だ。

首が見える髪型は社交会ぐらいでしかしない。

そういう決まりがある訳ではないが、多分山吹の趣味なんだろう。きっと。

余計な詮索はしない。触らぬ神に祟りなし!

髪を背もたれに背中を預け、そっと目を閉じた。

専属執事である山吹理人(やまぶき りひと)に起こされ、身支度を整えた後に彼が作った朝食を食べ、髪を結われる。


わたし──有栖川椿(ありすがわ つばき)──の1日はこのように始まる。


黒くて無駄に長い高級車で学校に送られ、山吹の手を借りて降りた。

いつもの事ながら周りの視線がこちらに集中する。

その視線に気づいているのか居ないのか分からないけれど、山吹は堂々としている。


「行ってらっしゃいませ。どうかお気をつけて」
「今日のおやつはマカロンで。行ってきます」


山吹は知っているのかしらね?視線がこちらに向く理由。

それは貴方の顔がとてもとてもとてーーーも綺麗だからよ。

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