ふたりぼっちの孤城
小説がクライマックス目前に差し掛かったところでノック音が聞こえたので山吹を部屋に通した。

このくだりはいい加減撤廃してもいいと思う。面倒くさい。

わたしの部屋には山吹以外来ないもの。

今日の夕食のメニューはアクアパッツァにルッコラのイタリアンサラダ、クリームスープ、豚肉のあんかけオニオンオイスターだ。

今日も今日とてカタカナが多い。

幸いなことにわたしはカタカナには強いからいいんだけどね。
その証拠に世界史の成績は良い。

デザートの蒸し焼きショコラを食べ終えると、山吹が食器を片付ける音の傍らで読みかけの本を開いた。


時計が21時を回ったところで無駄にでかいお風呂にゆっくり入って全身保湿をしてパックをしたまま山吹に髪を乾かしてもらった。

そのついでに香油も塗ってもらう。

椿のいい香りが部屋を満たす。

香油は何種類か持っているけれど、自分の名前と同じということもあって椿を愛用している。

本当の理由は椿の香りが1番山吹ウケがいいからだけどこれもまた山吹に言ったことは無い。


「ねぇ山吹」
「どうされました?」


ドライヤーの音も混ざっているが、山吹の声は真っ直ぐわたしの耳に入ってくる。


「今日夜更かししちゃダメかしら」


ドライヤーが止められた。

タイミングが良いのか悪いのか、髪を乾かし終えたようだ。

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