ふたりぼっちの孤城
アップルパイは半分以上残してしまい、夕食もろくに喉を通らなかった。

もっと聞くべきことは沢山あったと思う。

でもこれ以上柊の口から山吹の名前を聞きたくなかった。

使用人の間では普通の呼び方を柊が使うと、特別な間柄のように感じる。

それは柊が山吹に恋をしているからだろうか。


(いや、寧ろ、わたしが・・・・・・)


ここで思考を停止させた。

これ以上考えたら、また余計なことに気づいてしまう。


(山吹のタラシ野郎)


きっと山吹のことだから柊の気持ちには気づいている。

その上で泳がしているのは何故。

もしかして山吹の未来図には柊も描かれているのだろうか。


(嫌だなー・・・)


心の中にモヤモヤやドロッとした汚いものが溜まっていく。

初めてずるいと思った。

2人で出掛けるとデートと称されるその関係が。

平気で名前で呼べるその気軽さが。

山吹が2歳年上というその年齢差が。

隣を並んで歩けるその距離感が。


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