変化カラスとサキ
「今日も来たか。…おめ、野菜と交換するとき以外は一体、何しに来る??」

 自分が居ない間でも作物は変に減ったりはしていない。盗るつもりなら誰も居ない間を狙うはず。
 男は律儀に毎日同じ頃に来て、たまに少量の作物と交換する以外はサキの仕事を見ていた。

「悪いか?盗むわけじゃなし。言うなら、お前が気に入ったから見ているだけだ」

 男は何でもないと言うように言った。

「う、嘘つくなっ!」

 たじろぎながらもサキが言うと、男は楽しげに笑いながら返した。

「嘘なんかつかないさ。まあ、それは本当だが、カラスだからな。気に入ったもんや、餌がある場所に降りるのは当たり前だ」

「っ、騙されねえぞ!おめがカラスなもんか!…そりゃあ真っ黒な珍しいもん着てるから、初めはそう思ったが……」

 初めは勢いよく言ったが、サキは思わず言い淀んだ。

「どう見てもカラスだろう?」

 ニヤと笑って男が手を広げる。

「っ、おめはカラスじゃねえ!」

「疑り深いな。俺はカラスだぞ?空は飛ぶ、光もんは好きだしな。仲間達とは喧嘩してな、ふてくされて地面に降りたら、人間らしくなっちまった」

「う……。」

 実を言うと、男のことが変に気になって気になって、仕方が無かった。
 それでも口から出てくるのは憎まれ口ばかり。本当は、からかう男の言葉を信じ始めていた。

「…おめにかまってる暇ねんだ…じいちゃんの代わりに、おらがやんねえと……」

 呟くように言う。
 すると、男の真面目な顔に変わった。

「思いやりがあるし、本当に働きもんだな、お前」

「っ、おめに何が分かるって!!」

 知っている口を聞いた男を思わず睨んだ。
 しかし男は、心外とでも言うように平然と返した。

「何でも知っているぞ?お前一人で来る前は、祖父と毎日、畑仕事に精を出していた。俺には冷たいもんだが、祖父には笑顔だな。お前が作った握り飯も、食いやすいよう、ちいちゃいの、たんまり作ってやってただろう。この前は肩も揉んでやってたな。」

「…なんで…そんなこと……」

 男はこの前までこの辺では見かけたことはない。
 そんな、近くに寄らなければ分からないことも言い当てられては、もう信じるしかなかった。

「俺はカラスだからな。空から見てたのさ。」

 男は楽しげに笑った。
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