変化カラスとサキ
 家に帰ると、祖父は泣きそうなサキを見てゆっくりと身体を起こした。

「ただいま…じいちゃん…」

「サキ、何かあったな?どうした?」

 祖父が心配すると、下を向いていたサキは膝を付いて言った。

「…じいちゃん…!!今から出かけたい…!!それと明日明後日はどうか、おらに時間を下さい…!畑仕事、やれなくなってしまう…でもどうしても、行きたいとこがあって…!!ごめんなさい…!!」

 突然の言葉に祖父は面食らったが、サキの顔をじっと見つめた。

「…大事なことなんだな?」

「うん!!あいつに謝んなきゃ…!それに早くしないと、なんかあったら、あいつ、死んでしまうかもしれない…!!おら何もしてやれなくて、酷いこと言って…!!」

 泣きそうなサキに、祖父は難しい顔で一つ頷いた。

「…行ってこい。畑は無理しねぇ、じいちゃんが行って見っから。その代わりしっかりやれよ?そんで無事に帰ってこい!じいちゃんと約束だ!」

「うん!行ってきます!!」

 サキは祖父を見て少し微笑むと、そのまま家を飛び出した。


 サキは空や森や山を見渡しながら、暗くなってきた道を走った。

 飛び出したはいいが、サキには彼の居場所など検討もつかない。

 いつも男はサキの事ばかり聞いて、自分のことをほとんど話さなかった。

 ただ、仲間とは喧嘩したと言い、彼の宝を盗んだ群れには襲われたのだとしたら、行く場所はもう無いはず。

「何としてもっ…はあっはあっ…!!」

 傷だらけのあの哀れな姿のまま、カラスの群れに向かったのだとしたら、どんな目に遭っているか分からない。
 サキは急ぎに急いだ。

「カラス〜っ!!おらんちの畑に来たカラス〜!!どこ行った〜!!?」

 名も知らない、人間の姿しか知らないカラスを探し続けた。


 走り続けてしばらく経った時。
 突然、ギャアギャアという無数の鳥の鳴き声と、バサバサと木の枝が激しく擦れる音が、近くの森から聞こえた。

 サキは迷わず暗い森に足を踏み入れた。
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