変化カラスとサキ
 鬱蒼とした森に、周りを見渡しながら分け入る。
 足場は悪い。転ばないよう慎重に森を進んだ。

「はあ…はあ…カラス〜っ!!どこにいる〜!?」

 ギャアギャアとあちこちから響き渡る鳥の鳴き声。

 サキは何も持たずに来てしまった。
 もし男が他の鳥たちに襲われているのだとすれば、何も無しに追い払う他ない。

 それに、ただでさえカラスに戻った姿を見たことのない相手。もしカラスを見つけたところで、それが彼なのかどうかはサキには分からない。


 突然、カァカァバサバサと激しい音がして、こちらに飛んでくるものがあった。
 見ると一羽のふらつきながら飛ぶカラスの後を、何羽かのカラスが追っていた。

「やめて〜っ!!」

 サキは追うカラスの前に立ち、腕を広げて思わず叫んだ。

「いじめないで、お願い!!」

 サキがそう言うと、カラスたちはサキをすれすれで避け、それぞれ地面に降り立った。
 なぜ自分を襲ってこなかったのか分からなかった。サキはそれを見届けると、ふらついたカラスを急いで追った。


 しばらく歩くと、足元で何かが動くようなバサバサという音が、すぐそばでした。

「カラス!?」

 サキはすぐに駆け寄ると、小さなカラスが傷だらけで落ちていた。

 羽を弱々しくバタ付かせていたが、サキが急いで抱き上げると、いきなり激しく動きだした。

「悪い!痛かったか!?」

 カラスを落とさないよう包み込むように抱き抱え、サキはカラスにそっと話しかける。

「おらのとこの畑に来てたのは、おめだな??…無茶して…いや、おらのせいもあるか…。とりあえず、うちに来いな…」

 間違いなく彼だと思った。
 小さなカラスはサキの両手のひらで、カァ、と小さく鳴いた。


 サキは小走りで家に向かった。早くこのカラスを手当をしてやらなければと思った。
 しかし足は暗い森で、足元にあった草木で傷つき、何時間も慣れない道を歩き続けて疲れ切っていた。

「死ぬな…カラス、死ぬなよ…」

 手当の道具もなく、声を掛けてやる事しかできないサキは、歩きながらそっとカラスに頬を擦り寄せた。

 カラスは落ち着いたように目を細めてサキの手の中に収まっている。

 夜は眠ってしまうまで祖父の体の具合を見てやり、昼は畑仕事、夜はカラスを探しにきた。
 サキはとうとう座り込み、森の中で眠ってしまった。
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