変化カラスとサキ
 祖父は続けた。

「…サキがカラス嫌いになったのは、俺がサキを取り返されまいとカラスから遠ざけるため、『畑を荒らすカラスはダメだ』と、言って聞かせたからだ。おめぇには悪かったが…」

 男はそこまで聞くと口を開いた。

「…じいさん、俺はサキと居たい。だから人の姿になることが出来るよう願ったんだ、強く強く、な。カラスだろうが人間だろうが、サキが気に入った。じいさんと二人で畑やってたときから知ってる。サキは良い子だ。サキに生まれのことは言うな、ってことなら言わない。ただ、そばに居たい。だめか?」

 カラスは真っ直ぐに祖父を見て言った。

「…。」

 祖父はしばらく黙り込んだが、やがて、

「…畑を手伝え。飯と、風呂便所は貸してやる。隣に小屋作ってやるからそこで寝ろ」

 そう言った。

「じいさん、ありがとう…!!」

男は深々と頭を下げた。

「そうだカラス、畑手伝え」

サキがいつの間にか起きて立っていた。

「サキ…!!大丈夫か!?」

 男のその言葉に返さないまま、サキは言った。

「ここに居てえ、ってじいちゃんに言ったんだろ?おらの畑仕事手伝え、面倒みてやる。…まずは傷治せ…働かせらんねから…!」

 サキは少し嬉しそうに笑った。


 次の日から、カラスだった男は徐々に畑仕事を覚えていった。

「サキ、俺はなかなか上手いだろ、畑仕事は。サキの手伝いしたくて、ちゃんと見てたんだ。」

「…そうだな、おらの畑仕事、ずっと見てたもんな。」

「小屋も出来て慣れてくればそのうち、ここの他に他所もなんか手伝って、手間賃貰いに行けるな」

「…。」

 聞いたサキの手が止まった。

「……おらも行く…!」

 強い口調で言うサキの顔を覗き込みながら男は言った。

「サキが一緒に来てくれるのかぁ??じいさん寂しがるだろう?」

「カラスのくせにっ……おらだって、おめが居ないのはなあ…!」

 男はそれを聞くと嬉しそうに笑った。

「笑うなっ!」

 顔を赤くして返すサキに、男は言った。

「もう、どこにも飛んでいかないさ。前にサキにやった、光る玉があっただろ?他所の国じゃ、嫁に欲しい、って意味の贈りもんをやるんだとさ。サキを嫁にしたいくらいなのに、どこかに行くもんか」

 その日の夕陽も、真っ直ぐにサキを見る男の目を、あの光る玉のように輝かせていた……
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