聖女三姉妹 ~本物は一人、偽物二人は出て行け? じゃあ三人で出て行きますね~
10
サーシャが運転する馬車は東へ真っすぐ進んでいる。
整備された街道を外れ、裏道を使う。
魔物出現注意の区間だけど、私たちなら大丈夫。
聖女には癒す力だけではなくて、魔を退ける力も備わっているから。
魔よけの加護を馬車に施している。
効果は一日くらいで消えるけど、またかけなおせば問題はない。
こういう時は、素直に聖女で良かったと思う。
「カリナ、地図を見せて」
「わかった」
荷台へ手を伸ばし、バッグから地図を取り出す。
陛下が用意してくれた荷物に入っていたもので、王国を中心に近隣諸国までの道順も書いてある。
「三日もすれば国境は抜けられそうね」
「その後はどうするの?」
「う~ん、またその時に考えようかと思っていたけど、候補くらい決めておきましょうか?」
カリナがこくりと頷く。
道中に通り過ぎる国は五つ。
さすがに隣の国は近すぎるし、もしも追いかけて来られたら困る。
せめて二国以上は超えた先が望ましい。
「ここは? 一番端っこの小さい国」
「アトワール王国……確か、海に面した自然豊かな国って聞いたことがあるわ」
「あっ! ボクも知ってるよ!」
運転中のサーシャが話題に入ってきた。
「そうなの?」
「前に遠征で行ったことがある騎士さんがいたの。その人が教えてくれたんだけど、とっても住みやそうで雰囲気も良かったんだって」
「へぇ~ 何だか良さそうな所ね」
「うん! その騎士さんも、勤めが終わったら旅行に行きたいなーって言ってたくらい」
それは中々期待が出来そう。
他に候補もないし、行ってみる価値はありそうだと感じた。
「じゃあ決まりね。目指せアトワール王国!」
「まっかせてー!」
サーシャが意気込みを口にした直後に、ガタンと馬車が大きく揺れた。
車輪が石を踏んだのだろう。
カリナがむすっとして言う。
「……安全運転」
「わ、わかってるよぉ~」
アトワール王国までの道のりは長い。
地図と睨めっこしながら、大きな街道は避けて進む。
もしかすると、王国から捜索の部隊とかが出ているかもしれないから。
念には念を入れて、あまり街や村にも立ち寄らないよう注意した。
必然的に馬車での寝泊まりが多くなったけど、思っていたよりは快適な生活だったと思う。
そうして出発から二十日――
「遂に……着いたのね」
アトワール王国、首都クレンベル。
海と森に囲まれた純白の街に、私たちはたどり着いた。
「――凄く綺麗」
街並みを見た感想は一言、シンプルに口から漏れていた。
私たちの知っている街とは全然雰囲気が違う。
遠く離れている所為か、服装も変わっているように見える。
何より建物が全部白い。
見ていて疲れるくらい真っ白で、景色の奥には海の青が見える。
行きかう人々も個性豊か。
まるで白いキャンバスに描かれた絵のようだ。
「ねっ! ねっ? 言ってた通り良い所でしょ?」
「そうね。カリナは?」
カリナはこくりと頷いて言う。
「あとは図書館があれば、わたしは十分」
「ふふっ、カリナらしいわね」
「はいはーい! ボクは冒険者ギルドがあれば満足です!」
サーシャが手をあげながらそう言った。
「冒険者ギルド?」
「うん!」
「サーシャは冒険者になるつもりなの?」
「そうだよ! 実はずっとなってみたいと思ってたんだ~」
「それって危険じゃない?」
「大丈夫だよー。ボクはこれでも鍛えられているからね! それに身体を動かしていたほうが楽しいし、お金もいるでしょ?」
確かに、サーシャの言う通り。
活動資金は貰っていても、いずれなくなるのがお金だ。
稼げる仕事につくことは、生活していく中で大切なこと。
それはさておき、あとでちゃんと話は必要だろうけど。
そんなことを考えていると、カリナもぼそりと希望を口にする。
「だったらわたし……司書になりたい」
「司書ってあれよね。図書館で働きたいってこと?」
「そう」
これもカリナらしい。
彼女の本好きなら、そういう場所も向いているかもしれない。
せっかく国をでたんだし、やりたいことをするのも良いことだ。
「アイラお姉ちゃんは?」
「私?」
「やりたいこと……アイラはないの?」
二人からの質問に、私は考え込む。
もちろん、私のやりたいこと、希望はちゃんとある。
それは子供の頃にみた夢で、今でも思い出せる。
大きな屋敷に三人で暮らしながら、運命の人と出会って、甘くて優しい毎日を過ごす。
「あるわよ」
そのためにはまず、今を生きる準備が必要だ。
街へ入った私たちは、部屋を借りて、荷物を下ろし、足りない物は買い足した。
丁度いい広さの借家が空いていたのは幸運だったと思う。
部屋が三つに、キッチンとリビングもある。
ちょっと古いけど、中々良い部屋を見つけられた。
こうして、私たちの新しい生活が始まる。
初めての場所で、初めてのことを経験しながら、人として女性として成長していく。
それぞれが運命の出会いを果たし、幸福な日常を手に入れるまで。
これは私たちにとって、そんなハッピーエンドに繋がるプロローグだ。
整備された街道を外れ、裏道を使う。
魔物出現注意の区間だけど、私たちなら大丈夫。
聖女には癒す力だけではなくて、魔を退ける力も備わっているから。
魔よけの加護を馬車に施している。
効果は一日くらいで消えるけど、またかけなおせば問題はない。
こういう時は、素直に聖女で良かったと思う。
「カリナ、地図を見せて」
「わかった」
荷台へ手を伸ばし、バッグから地図を取り出す。
陛下が用意してくれた荷物に入っていたもので、王国を中心に近隣諸国までの道順も書いてある。
「三日もすれば国境は抜けられそうね」
「その後はどうするの?」
「う~ん、またその時に考えようかと思っていたけど、候補くらい決めておきましょうか?」
カリナがこくりと頷く。
道中に通り過ぎる国は五つ。
さすがに隣の国は近すぎるし、もしも追いかけて来られたら困る。
せめて二国以上は超えた先が望ましい。
「ここは? 一番端っこの小さい国」
「アトワール王国……確か、海に面した自然豊かな国って聞いたことがあるわ」
「あっ! ボクも知ってるよ!」
運転中のサーシャが話題に入ってきた。
「そうなの?」
「前に遠征で行ったことがある騎士さんがいたの。その人が教えてくれたんだけど、とっても住みやそうで雰囲気も良かったんだって」
「へぇ~ 何だか良さそうな所ね」
「うん! その騎士さんも、勤めが終わったら旅行に行きたいなーって言ってたくらい」
それは中々期待が出来そう。
他に候補もないし、行ってみる価値はありそうだと感じた。
「じゃあ決まりね。目指せアトワール王国!」
「まっかせてー!」
サーシャが意気込みを口にした直後に、ガタンと馬車が大きく揺れた。
車輪が石を踏んだのだろう。
カリナがむすっとして言う。
「……安全運転」
「わ、わかってるよぉ~」
アトワール王国までの道のりは長い。
地図と睨めっこしながら、大きな街道は避けて進む。
もしかすると、王国から捜索の部隊とかが出ているかもしれないから。
念には念を入れて、あまり街や村にも立ち寄らないよう注意した。
必然的に馬車での寝泊まりが多くなったけど、思っていたよりは快適な生活だったと思う。
そうして出発から二十日――
「遂に……着いたのね」
アトワール王国、首都クレンベル。
海と森に囲まれた純白の街に、私たちはたどり着いた。
「――凄く綺麗」
街並みを見た感想は一言、シンプルに口から漏れていた。
私たちの知っている街とは全然雰囲気が違う。
遠く離れている所為か、服装も変わっているように見える。
何より建物が全部白い。
見ていて疲れるくらい真っ白で、景色の奥には海の青が見える。
行きかう人々も個性豊か。
まるで白いキャンバスに描かれた絵のようだ。
「ねっ! ねっ? 言ってた通り良い所でしょ?」
「そうね。カリナは?」
カリナはこくりと頷いて言う。
「あとは図書館があれば、わたしは十分」
「ふふっ、カリナらしいわね」
「はいはーい! ボクは冒険者ギルドがあれば満足です!」
サーシャが手をあげながらそう言った。
「冒険者ギルド?」
「うん!」
「サーシャは冒険者になるつもりなの?」
「そうだよ! 実はずっとなってみたいと思ってたんだ~」
「それって危険じゃない?」
「大丈夫だよー。ボクはこれでも鍛えられているからね! それに身体を動かしていたほうが楽しいし、お金もいるでしょ?」
確かに、サーシャの言う通り。
活動資金は貰っていても、いずれなくなるのがお金だ。
稼げる仕事につくことは、生活していく中で大切なこと。
それはさておき、あとでちゃんと話は必要だろうけど。
そんなことを考えていると、カリナもぼそりと希望を口にする。
「だったらわたし……司書になりたい」
「司書ってあれよね。図書館で働きたいってこと?」
「そう」
これもカリナらしい。
彼女の本好きなら、そういう場所も向いているかもしれない。
せっかく国をでたんだし、やりたいことをするのも良いことだ。
「アイラお姉ちゃんは?」
「私?」
「やりたいこと……アイラはないの?」
二人からの質問に、私は考え込む。
もちろん、私のやりたいこと、希望はちゃんとある。
それは子供の頃にみた夢で、今でも思い出せる。
大きな屋敷に三人で暮らしながら、運命の人と出会って、甘くて優しい毎日を過ごす。
「あるわよ」
そのためにはまず、今を生きる準備が必要だ。
街へ入った私たちは、部屋を借りて、荷物を下ろし、足りない物は買い足した。
丁度いい広さの借家が空いていたのは幸運だったと思う。
部屋が三つに、キッチンとリビングもある。
ちょっと古いけど、中々良い部屋を見つけられた。
こうして、私たちの新しい生活が始まる。
初めての場所で、初めてのことを経験しながら、人として女性として成長していく。
それぞれが運命の出会いを果たし、幸福な日常を手に入れるまで。
これは私たちにとって、そんなハッピーエンドに繋がるプロローグだ。