聖女三姉妹 ~本物は一人、偽物二人は出て行け? じゃあ三人で出て行きますね~

 冒険者ギルドの建物は、グレンベルの中でも特に目立つ。
 真っ白な建物が多い中で、唯一木の茶色を残している建物だから。
 他にも造りとか、違う所はたくさんある。
 入り口の扉を開けると、カランカランとベルが鳴って、人が入ってきたことを知らせる。

 中へ入ると正面に窓口があって、受付のお姉さんたちが座っている。
 右手は二階へ上がる階段。
 左には広々としたホールが広がっている。
 椅子と机がたくさん設置してあって、冒険者たちが食事をしたり、情報交換をするためのスペースだ。
 奥にはクエストボードという掲示板がある。
 依頼はクエストボードに張り出されているから、そこから選んで受付に持っていく。
 早い者順で、良い依頼はすぐなくなってしまう。

 その前に――
 ボクはキョロキョロと人を探す。

「あっ! おじさーん!」

 端っこのテーブルで待つ男の人がいる。
 ぽつんと一人で座っているのはいつものこと。
 ボクが手を振って近づくと、おじさんは呆れ顔で言う。

「あのな~ でっかい声でおじさんは止めろって言ってるだろ? ちゃんとタチカゼさんと呼べ」
「タチカゼ!」
「せめてさんはつけろよ」
「えぇ~ じゃあやっぱりおじさんのほうが呼びやすいよ」
「はぁ……もう良い。なんかアホらしくなってきた」

 おじさんは特大のため息をこぼした。
 このダルそうにしているおじさんが、ボクと一緒に依頼を受けてくれる仲間。
 名前はタチカゼって言うらしい。
 最初に聞いた時に変な名前って言ったらすごく怒られたよ。
 おじさんもこの国出身の人じゃなくて、もっと東の海を渡った先から来たみたい。
 左腕がないのは、何年も前からだという。
 詳しいことは聞いていないけど、何だか大変なことがあったんだろうなとは思う。
 ちなみに今年で四十歳になる。
 ほらね?
 やっぱりおじさんがピッタリだよ。

「おいサーシャ、今失礼なこと考えたろ?」
「考えてませーん。むしろ褒めてたんだよ~」
「絶対嘘だなその顔。大方あれだろ? 三十路もとっくに過ぎてんだから、おっさんで丁度良いだろみたいな」
「ぅ……外れです!」
「いやお前! 確実に合ってただろ? 今ぅっつ言っただろうが!」

 なんてワイワイやっていると、周囲の視線が集まってきた。
 何だかヒソヒソ話もされている。
 それに気づいたおじさんが落ち着きを取り戻して、椅子から立ち上がって言う。

「んじゃ、さっさと依頼を探しに行くか」
「うん!」

 ボクとおじさんはクエストボードの前まで移動した。
 時間はまだ早いほうだけど、ちょっぴりボクが遅れたから、依頼も半数がなくなっている。
 とはいっても問題はない。
 元々ボクたちは、難しい依頼とか報酬が良い依頼を受けていないから。

「ん~ これでいいか」

 そう言っておじさんが手に取ったのは、簡単な薬草採取の依頼だった。
 何度も受けている依頼だ。
 ボクはそれを見て、自分でもわかるくらい嫌そうな顔をする。

「またそれ~ ボクは討伐依頼がいいなぁ」
「はぁ? だったらお前は留守番でもしてろよ。オレ一人で行ってくるから」
「まーたそんなこと言う! ボクたちは同じパーティーなんだよ?」
「いや……お前が勝手に引っ付いてくるだけだろ」

 おじさんは悲しいことを言っている。
 ちゃんとボクたちはパーティー登録しているし、おじさんも了承してくれた。
 と、ボクは思っているんだけど……

「いやいや? あれもお前が勝手に書類書いて提出しただけだからな? オレは一言もうんなんて言ってないからな?」
「でも一緒に依頼受けてくれてるよね?」
「そりゃーまぁ……成り行きだ」
「照れなくても良いのに~」
「はぁ……照れてんじゃねぇ。あんま言うなら置いてくぞ」

 おじさんは受付に向って歩き出す。
 ボクは置いて行かれないように後ろをついていく。

 その前に……よし!

「おじさん待ってよ!」
「あんま大声で呼ぶなって。ただでさえ変な目で見られてんだから」
「それは前からって聞いたよ?」
「うっ……それ言ってたやつ後で教えろ」

 そのまま受付に行って、おじさんが依頼書を差し出す。
 依頼はギルドの職員が受領して初めて受注される。
 ここでハンコを押してもらわないと、後で報酬が受け取れない。

「これもお願いします!」
「なっ、お前いつの間に……」
 
 だから隠すのもここまで。
 ボクはこっそりボードからとっておいた依頼書を提出した。
 内容はワーウルフの討伐。

「お前なぁ……」
「ダメ?」
「……はぁ、わかった。好きにしろ」
「やったー! おじさん大好き!」
「ちょっおまっ! おじさんよりそっちを止めろ!」

 アタフタするおじさんを見るのは楽しい。
 ヒソヒソ話の内容なんて、ボクにはわからないし聞こえない。
 きっとよくない噂とかも立っているんだろうなぁーとは思う。
 でもやっぱり、ボクはおじさんと一緒が良い。

「じゃあ出発しよ!」
「わかったからあんま走るなよ」
「えぇ~ やっぱりおじさんで合ってるよ」
「うっ……反論できねぇ」

 そんな感じでボクたちは冒険者ギルドを出る。
 依頼書に記されていた森は、ギルトの反対側にある。
 ちょうどボクたちが初めてこの街に来た時、通り過ぎてきた大きな森だ。
 そこは他の街へ続く唯一の道があって、グレンベルにとっては大事な場所らしい。

「さぁー、今日も頑張ろう!」
「若い奴は元気だな」
< 12 / 50 >

この作品をシェア

pagetop