聖女三姉妹 ~本物は一人、偽物二人は出て行け? じゃあ三人で出て行きますね~
⑥
お兄さんたちと合流したボクは、依頼を受けて森へ向かった。
二日目となると要領もわかってくる。
順調に依頼内容をクリアしていって、予定時刻よりも早く全て達成した。
すると、リーダーのお兄さんがボクに言う。
「早く終わったし、せっかくだから少し奥までいかないかい?」
「奥ですか?」
「ああ。追加報酬目的で、魔物を何体か狩りに行こう」
「我々は穴場をしっているんですよ」
「そうなんですか?」
時間はちょうど正午が過ぎた所。
今から戻っても、丸まる午後が暇になってしまう。
魔物を倒して結晶を納品すれば、追加報酬をもらえるのは聞いていた。
これから冒険者として働く上でも、穴場があるなら教えてほしい。
親切に教えてくれるなら、もちろん行くと答える。
「わかりました!」
そう。
親切だと思っていた。
お兄さんたちは優しく微笑み、森の奥へ進んでいく。
比較的明るい森も、深く進めば徐々に暗くなる。
不気味さを増していく森の中を、ボクたちはまっすぐに歩いて行った。
そうしてたどり着いたのは、ぽっかりと開いた自然の洞窟だった。
「ここですか?」
お兄さんたちは頷き、先頭に立って洞窟内へ入っていく。
ボクも遅れないように後ろへ続いた。
中は明かりもなくて、薄暗くて肌寒い。
「そういえば、集合前にあの人と話してたよね?」
「え、あっはい」
「何を話していたのかな?」
「大した話はしてませんよ。おじさんが誰なのかとか聞いたんですけど、全然答えてくれなかったんです」
「なるほど」
「でもでも! 気を付けてねって言ってくれたんです! 戻ったら名前を聞かなくちゃ」
「そうか……残念だけど、戻ることはないよ?」
「えっ――」
チクっと何かが首に刺さる。
次の瞬間、全身の力が抜けて、ボクは地面に倒れ込んでいた。
身体がしびれて動かない。
見上げて見えるのは、お兄さんたちの笑顔。
今まで見せていた優しい笑顔ではなく、いやらしくねっとりとした気持ちの悪い笑顔だった。
「サーシャちゃん、忠告は聞いた方がいいぞ? ギルドにも言われたんじゃないのか? 変な人たちには気を付けろってなぁ」
「……何で?」
お兄さんはニヤリと笑う。
すると、彼の後ろから新しく二つの足音が聞こえてきた。
姿を現したのは、冒険者らしくない格好をした男性二人。
二人は明かりを持っていて、それでボクを照らす。
「っ……」
「ほほう! これはなかなかの上物ですな~」
「だろ? 最初見た時からピンと来たんだよね。こいつは高く売れるって」
「う……る?」
「そうだぜ! おめでとうサーシャちゃん、君も今日から奴隷の一員だ」
奴隷?
お兄さんは何を言っているのだろう。
混乱していたボクは、すぐに理解が追いつかなかった。
そんなボクに、お兄さんは言う。
「良い髪色だよな~ それにまだ若い。買い手は山ほど多いだろうぜ~」
「間違いありませんな。これくらいでどうでしょう?」
「おっ、こんなにくれるのか? いいねさっすがだぜ」
「お得意様ですから。それにこのレベルの娘は中々お目にかかれない。まず間違いなく最高のコレクションとして高値がつきましょう」
「だとよ。よかったなーサーシャちゃん」
いよいよ状況が理解出来てきた。
全然良くない。
この人たちは奴隷を売り買いする人だ。
お兄さんたちは、ボクを奴隷として売り飛ばそうとしている。
良い人なんて思ったけど、すっごく悪い人だったんだ。
そうだとわかった途端、ボクの瞳からはたくさんの涙が溢れ出ていた。
「ぅ……お姉ちゃん」
「あんな所に一人で来るのが悪いんだぞ? 簡単に他人を信じるから、こういうことになるんだ」
「――まったくその通りだな」
その時、違う声が聞こえてきた。
この場にいる誰の声でもない。
だけど、ボクはその声の主を知っている。
だって、ついさっき初めて聞いた声だから、忘れるはずもない。
「だから言っただろ~ 気を付けろよってな」
「おじさん?」
「おじさんじゃねぇよ」
洞窟の入り口側から現れたのは、ギルドで一人ぼっちだったおじさんだ。
刃の太い剣を腰に装備して、気だるそうに歩み寄ってくる。
「だ、誰だアンタ!」
「通りすがりの冒険者だ。っていえば良いか?」
「お前……」
お兄さんたちも、あのおじさんだと気づいた様子。
「どうしてここに?」
「何、ちょっとギルドから依頼されてたもんでな」
「依頼……だと?」
「ああ。近頃、新米の女冒険者が次々に消息を絶つ事件が増えてる。人為的な犯行の可能性が高いから、それを探ってくれってな」
「ギルドが……あんたに?」
「まぁな。他にも依頼かけてたみたいだけど、オレがドンピシャだったわけだ」
そう言って、おじさんは無造作に近づく。
お兄さんは大きな舌打ちをしてから、腰から剣を抜いた。
他の二人も武器をとり、戦闘態勢に入っている。
「おっ、何だやる気か?」
「はっ! かっこよく出てきたのは良いけどなー! あんたは所詮一人、しかも片腕だろ?」
「そうだな」
分が悪いのはお前だと言っている。
それでもおじさんは歩みを止めない。
余裕の笑みを浮かべ、まだ剣すら抜こうとしない。
その太々しさに違和感を覚え、お兄さんたちは尻込む。
「旦那……逃げましょう」
「はぁ? 急に何を言って――」
お兄さんは気付く。
奴隷商人の一人が怯え震えていることに。
「あ、あの人は駄目だ。絶対に勝てない」
「何だよそれ、何を知ってるんだ?」
「あの人は……十年前、王国最強と呼ばれた遍歴騎士――タチカゼ・カタキだ!」
ボクは思わぬタイミングで、おじさんの名前を知ることになった。
二日目となると要領もわかってくる。
順調に依頼内容をクリアしていって、予定時刻よりも早く全て達成した。
すると、リーダーのお兄さんがボクに言う。
「早く終わったし、せっかくだから少し奥までいかないかい?」
「奥ですか?」
「ああ。追加報酬目的で、魔物を何体か狩りに行こう」
「我々は穴場をしっているんですよ」
「そうなんですか?」
時間はちょうど正午が過ぎた所。
今から戻っても、丸まる午後が暇になってしまう。
魔物を倒して結晶を納品すれば、追加報酬をもらえるのは聞いていた。
これから冒険者として働く上でも、穴場があるなら教えてほしい。
親切に教えてくれるなら、もちろん行くと答える。
「わかりました!」
そう。
親切だと思っていた。
お兄さんたちは優しく微笑み、森の奥へ進んでいく。
比較的明るい森も、深く進めば徐々に暗くなる。
不気味さを増していく森の中を、ボクたちはまっすぐに歩いて行った。
そうしてたどり着いたのは、ぽっかりと開いた自然の洞窟だった。
「ここですか?」
お兄さんたちは頷き、先頭に立って洞窟内へ入っていく。
ボクも遅れないように後ろへ続いた。
中は明かりもなくて、薄暗くて肌寒い。
「そういえば、集合前にあの人と話してたよね?」
「え、あっはい」
「何を話していたのかな?」
「大した話はしてませんよ。おじさんが誰なのかとか聞いたんですけど、全然答えてくれなかったんです」
「なるほど」
「でもでも! 気を付けてねって言ってくれたんです! 戻ったら名前を聞かなくちゃ」
「そうか……残念だけど、戻ることはないよ?」
「えっ――」
チクっと何かが首に刺さる。
次の瞬間、全身の力が抜けて、ボクは地面に倒れ込んでいた。
身体がしびれて動かない。
見上げて見えるのは、お兄さんたちの笑顔。
今まで見せていた優しい笑顔ではなく、いやらしくねっとりとした気持ちの悪い笑顔だった。
「サーシャちゃん、忠告は聞いた方がいいぞ? ギルドにも言われたんじゃないのか? 変な人たちには気を付けろってなぁ」
「……何で?」
お兄さんはニヤリと笑う。
すると、彼の後ろから新しく二つの足音が聞こえてきた。
姿を現したのは、冒険者らしくない格好をした男性二人。
二人は明かりを持っていて、それでボクを照らす。
「っ……」
「ほほう! これはなかなかの上物ですな~」
「だろ? 最初見た時からピンと来たんだよね。こいつは高く売れるって」
「う……る?」
「そうだぜ! おめでとうサーシャちゃん、君も今日から奴隷の一員だ」
奴隷?
お兄さんは何を言っているのだろう。
混乱していたボクは、すぐに理解が追いつかなかった。
そんなボクに、お兄さんは言う。
「良い髪色だよな~ それにまだ若い。買い手は山ほど多いだろうぜ~」
「間違いありませんな。これくらいでどうでしょう?」
「おっ、こんなにくれるのか? いいねさっすがだぜ」
「お得意様ですから。それにこのレベルの娘は中々お目にかかれない。まず間違いなく最高のコレクションとして高値がつきましょう」
「だとよ。よかったなーサーシャちゃん」
いよいよ状況が理解出来てきた。
全然良くない。
この人たちは奴隷を売り買いする人だ。
お兄さんたちは、ボクを奴隷として売り飛ばそうとしている。
良い人なんて思ったけど、すっごく悪い人だったんだ。
そうだとわかった途端、ボクの瞳からはたくさんの涙が溢れ出ていた。
「ぅ……お姉ちゃん」
「あんな所に一人で来るのが悪いんだぞ? 簡単に他人を信じるから、こういうことになるんだ」
「――まったくその通りだな」
その時、違う声が聞こえてきた。
この場にいる誰の声でもない。
だけど、ボクはその声の主を知っている。
だって、ついさっき初めて聞いた声だから、忘れるはずもない。
「だから言っただろ~ 気を付けろよってな」
「おじさん?」
「おじさんじゃねぇよ」
洞窟の入り口側から現れたのは、ギルドで一人ぼっちだったおじさんだ。
刃の太い剣を腰に装備して、気だるそうに歩み寄ってくる。
「だ、誰だアンタ!」
「通りすがりの冒険者だ。っていえば良いか?」
「お前……」
お兄さんたちも、あのおじさんだと気づいた様子。
「どうしてここに?」
「何、ちょっとギルドから依頼されてたもんでな」
「依頼……だと?」
「ああ。近頃、新米の女冒険者が次々に消息を絶つ事件が増えてる。人為的な犯行の可能性が高いから、それを探ってくれってな」
「ギルドが……あんたに?」
「まぁな。他にも依頼かけてたみたいだけど、オレがドンピシャだったわけだ」
そう言って、おじさんは無造作に近づく。
お兄さんは大きな舌打ちをしてから、腰から剣を抜いた。
他の二人も武器をとり、戦闘態勢に入っている。
「おっ、何だやる気か?」
「はっ! かっこよく出てきたのは良いけどなー! あんたは所詮一人、しかも片腕だろ?」
「そうだな」
分が悪いのはお前だと言っている。
それでもおじさんは歩みを止めない。
余裕の笑みを浮かべ、まだ剣すら抜こうとしない。
その太々しさに違和感を覚え、お兄さんたちは尻込む。
「旦那……逃げましょう」
「はぁ? 急に何を言って――」
お兄さんは気付く。
奴隷商人の一人が怯え震えていることに。
「あ、あの人は駄目だ。絶対に勝てない」
「何だよそれ、何を知ってるんだ?」
「あの人は……十年前、王国最強と呼ばれた遍歴騎士――タチカゼ・カタキだ!」
ボクは思わぬタイミングで、おじさんの名前を知ることになった。