聖女三姉妹 ~本物は一人、偽物二人は出て行け? じゃあ三人で出て行きますね~
⑦
「遍歴騎士タチカゼ? 誰だよそれ」
「へぇ~ オレを知ってる奴がまだいたのか。これは驚いたな」
「忘れるはずないでしょう? あっしらのアジトにたった一人で乗り込んできて、壊滅させた化け物を」
「なっ……」
「あぁ、あのとき潰した奴隷商会の生き残りか。何だよまだしぶとく復職してたわけか」
お兄さんたちは武器を構えたまま後ずさる。
「そいうやさっき、逃げたほうが良いとか言ってたな? そいつは間違いだ」
刹那。
剣を抜く瞬間すら見えない。
視界から一人が消え、次に見えた時にはボクの隣にいた。
「もうおせぇ」
「がっ……」
倒れ込むお兄さんたちと奴隷商人二人。
おじさんはいつの間にか抜いていた剣を、かちゃりと鞘に納める。
「やれやれ。純粋すぎるなお前は」
「……」
「あぁ、麻痺毒で動けないのか。ちょっと待ってろ」
おじさんは腰のバッグをあさる。
中から一瓶のポーションを取り出し、ボクを起こして飲ませてくれた。
「解毒薬だ」
ごくりと飲む。
苦くて不味いけど、飲んだ途端に聞き始めて、口が動くようになった。
「おじさん」
「ったく、まだおじさんって言うか」
「だってまだ……名前聞いてない」
「は? さっきそこの倒れてる奴がしゃべってたろ」
「……おじさんから聞いてない」
「むっ、何だそりゃ。変な奴だなお前……タチカゼだ」
「助けてくれてありがとう。タチカゼおじさん」
「結局変わらんねぇーじゃんか」
おじさんは呆れながらボクを抱き起してくれた。
解毒は済んだけど、まだ脚に力が入らない。
「仕方ねーな」
そう言って、おじさんはボクをおぶってくれた。
とっても大きな背中だ。
すごく安心する。
「お前さんは他人を疑うことを覚えろ」
「……うん」
安心した所為か。
止まっていた涙がまたあふれ出した。
「怖かった……怖かったよぉ~」
「だろうな」
「ありがとう。おじさん、ありがとう……」
「どういたしまして」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
翌々日。
奴隷商人二人と、ボクを騙したお兄さんたちはギルドに捕まった。
今頃は事情聴取というものを受けているらしい。
聞いた話によると、おじさんはずっと前から依頼を受けていたらしく、ギルドに来る冒険者たちを観察して、怪しい人たちがいないかチェックしていたという。
ボクを助けられたのも、偶然だったと言われた。
もしも間に合わなかったら、今頃ボクはさらわれて、お姉ちゃんたちともさよならしていただろう。
そう思うとぞっとする。
でも――
「おじさーん!」
「っ……でかい声で呼ぶな」
ボクはまだ、冒険者を続けるつもりだ。
「おはようおじさん! この間は助けてくれてありがと!」
「はいはい。それは何回も聞いたから十分だ。さっさと他のパーティーでも見つけに行け」
「ううん、今日はね~ おじさんにお願いがあって来たんだ」
一昨日のことでよくわかった。
冒険者はとても危険な仕事で、いろんな怖いことがある。
ずっと暮らしてきた王国とは違う怖さが、これから先もあるはずだ。
だったらせめて信頼できる人と一緒にいたい。
だから――
「は? オレに?」
「うん! ボクをおじさんのパーティーに入れてほしいの」
「……はぁ?」
「おじさんと一緒に冒険がしたい!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ったく驚いたぜ。オレのパーティーに入りたいとか、普通考えないだろ?」
「そうかな? ボクはもう、この人しかいない! って思ったよ」
最初はすごく嫌がられた。
他のパーティーを薦められたり、普通に逃げようとしたり。
でも、他の人は知らないし、ボクはおじさんが良かったから、頑張ってお願いした。
「何回つっぱねても諦めねーんだからな。そりゃー誰でもおれるだろ」
「えっへへ~」
「照れてんじゃねぇ。褒めてねーから」
あの日から三か月弱。
ボクが冒険者を続けられているのは、おじさんが助けてくれたからだ。
こうして話している時、しみじみと思い知らされる。
「今のボクがあるのは、ぜーんぶおじさんのお陰だね!」
「そうかよ。んじゃまぁ、精々頑張って恩返しでもしてくれ」
「まっかせてよ! 恋人のいないおじさんのために、ボクが一生傍にいてあげるから!」
「なっ……余計なお世話だ。そもそもオレの好みはボンキュッボンの女。お前みたいなガキンチョに興味はねーよ」
「むぅ~ またイジワル言う」
おじさんは恥ずかしそうに眼を逸らす。
好みでないと口では言いながら、ちょっとは嬉しいのかな。
「というか冗談でもそういうこと言うな。そういうセリフは、ちゃんと好きな相手にするもんだぞ」
「えぇ~ 冗談じゃないよ~ ボクはおじさんが大好きだもん」
「だからそういう……はぁ」
大きなため息をついたおじさんは、一人で席を立つ。
時計を見ると、もう帰る時間になっていた。
「じゃあまた明日な」
「うん!」
おじさんは先にギルドを出て行く。
ボクはその後ろ姿を眺めながら、ぼそりと聞こえない小さな声で言う。
「冗談じゃないのに……」
おじさんは鈍感だ。
助けられたあの日から、ボクはずっとおじさんのことが好きなのに。
ちゃんと伝えたら気付いてくれるかな?
「へぇ~ オレを知ってる奴がまだいたのか。これは驚いたな」
「忘れるはずないでしょう? あっしらのアジトにたった一人で乗り込んできて、壊滅させた化け物を」
「なっ……」
「あぁ、あのとき潰した奴隷商会の生き残りか。何だよまだしぶとく復職してたわけか」
お兄さんたちは武器を構えたまま後ずさる。
「そいうやさっき、逃げたほうが良いとか言ってたな? そいつは間違いだ」
刹那。
剣を抜く瞬間すら見えない。
視界から一人が消え、次に見えた時にはボクの隣にいた。
「もうおせぇ」
「がっ……」
倒れ込むお兄さんたちと奴隷商人二人。
おじさんはいつの間にか抜いていた剣を、かちゃりと鞘に納める。
「やれやれ。純粋すぎるなお前は」
「……」
「あぁ、麻痺毒で動けないのか。ちょっと待ってろ」
おじさんは腰のバッグをあさる。
中から一瓶のポーションを取り出し、ボクを起こして飲ませてくれた。
「解毒薬だ」
ごくりと飲む。
苦くて不味いけど、飲んだ途端に聞き始めて、口が動くようになった。
「おじさん」
「ったく、まだおじさんって言うか」
「だってまだ……名前聞いてない」
「は? さっきそこの倒れてる奴がしゃべってたろ」
「……おじさんから聞いてない」
「むっ、何だそりゃ。変な奴だなお前……タチカゼだ」
「助けてくれてありがとう。タチカゼおじさん」
「結局変わらんねぇーじゃんか」
おじさんは呆れながらボクを抱き起してくれた。
解毒は済んだけど、まだ脚に力が入らない。
「仕方ねーな」
そう言って、おじさんはボクをおぶってくれた。
とっても大きな背中だ。
すごく安心する。
「お前さんは他人を疑うことを覚えろ」
「……うん」
安心した所為か。
止まっていた涙がまたあふれ出した。
「怖かった……怖かったよぉ~」
「だろうな」
「ありがとう。おじさん、ありがとう……」
「どういたしまして」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
翌々日。
奴隷商人二人と、ボクを騙したお兄さんたちはギルドに捕まった。
今頃は事情聴取というものを受けているらしい。
聞いた話によると、おじさんはずっと前から依頼を受けていたらしく、ギルドに来る冒険者たちを観察して、怪しい人たちがいないかチェックしていたという。
ボクを助けられたのも、偶然だったと言われた。
もしも間に合わなかったら、今頃ボクはさらわれて、お姉ちゃんたちともさよならしていただろう。
そう思うとぞっとする。
でも――
「おじさーん!」
「っ……でかい声で呼ぶな」
ボクはまだ、冒険者を続けるつもりだ。
「おはようおじさん! この間は助けてくれてありがと!」
「はいはい。それは何回も聞いたから十分だ。さっさと他のパーティーでも見つけに行け」
「ううん、今日はね~ おじさんにお願いがあって来たんだ」
一昨日のことでよくわかった。
冒険者はとても危険な仕事で、いろんな怖いことがある。
ずっと暮らしてきた王国とは違う怖さが、これから先もあるはずだ。
だったらせめて信頼できる人と一緒にいたい。
だから――
「は? オレに?」
「うん! ボクをおじさんのパーティーに入れてほしいの」
「……はぁ?」
「おじさんと一緒に冒険がしたい!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ったく驚いたぜ。オレのパーティーに入りたいとか、普通考えないだろ?」
「そうかな? ボクはもう、この人しかいない! って思ったよ」
最初はすごく嫌がられた。
他のパーティーを薦められたり、普通に逃げようとしたり。
でも、他の人は知らないし、ボクはおじさんが良かったから、頑張ってお願いした。
「何回つっぱねても諦めねーんだからな。そりゃー誰でもおれるだろ」
「えっへへ~」
「照れてんじゃねぇ。褒めてねーから」
あの日から三か月弱。
ボクが冒険者を続けられているのは、おじさんが助けてくれたからだ。
こうして話している時、しみじみと思い知らされる。
「今のボクがあるのは、ぜーんぶおじさんのお陰だね!」
「そうかよ。んじゃまぁ、精々頑張って恩返しでもしてくれ」
「まっかせてよ! 恋人のいないおじさんのために、ボクが一生傍にいてあげるから!」
「なっ……余計なお世話だ。そもそもオレの好みはボンキュッボンの女。お前みたいなガキンチョに興味はねーよ」
「むぅ~ またイジワル言う」
おじさんは恥ずかしそうに眼を逸らす。
好みでないと口では言いながら、ちょっとは嬉しいのかな。
「というか冗談でもそういうこと言うな。そういうセリフは、ちゃんと好きな相手にするもんだぞ」
「えぇ~ 冗談じゃないよ~ ボクはおじさんが大好きだもん」
「だからそういう……はぁ」
大きなため息をついたおじさんは、一人で席を立つ。
時計を見ると、もう帰る時間になっていた。
「じゃあまた明日な」
「うん!」
おじさんは先にギルドを出て行く。
ボクはその後ろ姿を眺めながら、ぼそりと聞こえない小さな声で言う。
「冗談じゃないのに……」
おじさんは鈍感だ。
助けられたあの日から、ボクはずっとおじさんのことが好きなのに。
ちゃんと伝えたら気付いてくれるかな?