聖女三姉妹 ~本物は一人、偽物二人は出て行け? じゃあ三人で出て行きますね~
二
グレンベル大図書館の地下には隠された部屋がある。
その部屋は研究室になっていて、様々な研究がなされている。
「待ちくたびれたぞ、カリナ」
「……また散らかしましたね」
研究室の中は、足の踏み場も危ういほど物が散乱していた。
「昨日……片付けたのに」
一日で汚してしまうなんて、さすが博士だと思った。
「なぜだろう? 今とてつもなく失礼な褒められ方をしたような気がするが……」
「気のせいだと思います。じゃあ片付けるので」
「いや、それよりこっちを手伝え。ちょうど手が欲しかった所だ」
「ダメです。先に片付けます」
「ほう? 君は助手の分際でこの僕に逆らうと?」
博士は鋭い目つきでわたしを見ている。
普段のわたしなら、あんな目をされると怖くて黙ってしまうだろう。
でも、博士が相手の時は、なぜだか落ち着いていられる。
「いいから手伝え」
「無理です。だって……」
博士の席までの距離、およそ五メートル。
その間に敷き詰められた本や資料の山。
「通れません」
「……仕方ないな。早く片付けてくれ」
「そうします」
この人の名前は、ナベリス・グローマン。
パーマのかかった藍色の髪と、白衣にメガネの見た目はお医者さんか研究者しかない。
彼の場合は後者で、王国直属の研究者だ。
聞いた話によると、この国一番の頭脳を持ち、様々な魔道具や薬などを開発してきたとか。
ここ数年の急激な発展を支えているのは、ナベリス博士だと言われている。
初めて会った日は、そんなに凄い人だとは思えなかったけど。
「おい、また失礼なことを考えているだろ?」
「気のせいだと思います」
「そうか」
王国一の頭脳を持っているけどちょっぴり天然な博士。
部屋の片づけが出来なかったり、常識に疎かったりするのもその所為。
加えて極度の人見知りで、わたしより酷い。
こんな場所で研究をしているのも、極力他人と関わらないようにするためらしい。
「終わったか」
「はい」
片づけが終わり、やっと博士の所まで道が出来た。
たぶん、また明日にはなくなっている道だけど、博士だし仕方がない。
「終わったのなら手伝ってくれ」
「何をすればいいですか?」
「この数値を全てあちらへ移したい」
「全部ですか?」
「全部だ」
博士の手元には、難しい計算式の書かれた紙がずらっと並んでいる。
これらすべての数字を、研究用に開発された装置に入力していく。
文字や映像を投影して、情報や演算結果を処理できる装置で、博士が開発した物の一つだそう。
「一人では手が足らん」
「……でしょうね」
量的には二人で頑張っても一日で終わらない。
こんな量の情報を、午前中のうちに仕上げていたのか。
「この情報って……」
「何を今さら、君の持つ聖女の力についてだ」
博士はここで、様々なことについて研究している。
軍事用の魔道具の開発から、民間で使われる薬の調合まで。
あらゆることを博士は一人でこなしてきた。
そんな博士が取り組んでいるのは――
聖女の持つ治癒力、免疫力を他者に与える方法について。
わたしたち聖女は、神様の加護を受けている。
祈りを捧げれば、傷を癒したり、病を治癒させたりもできる。
そして、わたしたち自身も高い治癒能力と、病気に対する免疫力を持っている。
三姉妹は全員、一度も病気にかかったことがないのはその影響だ。
「君の持つ聖女の免疫力。それが他者に分け与えることが出来れば、人々の平均寿命は飛躍的に伸びる。それどころか、従来の薬が必要なくなる」
「そんなこと……本当に出来るんですか?」
「さぁな。それを確かめるために、僕はこうして研究を続けているんだ」
博士はそう言って、わたしに目を向ける。
「君だって、最初から聖女だったわけではないのだろう?」
「そう……ですね」
「ならば可能性はゼロではない。少なくともボクはそう思っているし、そうでなければ、わざわざ君を助手に選んだりしないよ」
そう、わたしは博士の助手としても働いている。
博士にとってわたしは、自分の研究を有意義に進めるためのパーツだ。
もしもわたしが聖女でなかったら、博士はわたしに見向きもしないだろう。
出会いも、ここに至るまでの経緯も、ほとんどが偶然だった。
それでも良い。
偶然というのは、運命と言い換えることが出来るから。
わたしにとって、博士との出会いは運命だったと思うから。
「何をぼさっとしている? さっさと手を動かせ」
「はい」
口が悪くて、デリカシーのない人。
だけど、わたしを必要としてくれた人だから。
「あぁ、そうだ。身体を調べたいから、後で裸になってもらえるか?」
「――えっ?」
「何だ? なぜ嫌そうな顔をしている?」
「嫌に決まってます」
「そうか。ならば仕方がない。ボクも脱ぐからお相子ということでどうだ?」
「馬鹿ですね」
「なっ……」
頭が良い人って、一周回って馬鹿なのかな?
その部屋は研究室になっていて、様々な研究がなされている。
「待ちくたびれたぞ、カリナ」
「……また散らかしましたね」
研究室の中は、足の踏み場も危ういほど物が散乱していた。
「昨日……片付けたのに」
一日で汚してしまうなんて、さすが博士だと思った。
「なぜだろう? 今とてつもなく失礼な褒められ方をしたような気がするが……」
「気のせいだと思います。じゃあ片付けるので」
「いや、それよりこっちを手伝え。ちょうど手が欲しかった所だ」
「ダメです。先に片付けます」
「ほう? 君は助手の分際でこの僕に逆らうと?」
博士は鋭い目つきでわたしを見ている。
普段のわたしなら、あんな目をされると怖くて黙ってしまうだろう。
でも、博士が相手の時は、なぜだか落ち着いていられる。
「いいから手伝え」
「無理です。だって……」
博士の席までの距離、およそ五メートル。
その間に敷き詰められた本や資料の山。
「通れません」
「……仕方ないな。早く片付けてくれ」
「そうします」
この人の名前は、ナベリス・グローマン。
パーマのかかった藍色の髪と、白衣にメガネの見た目はお医者さんか研究者しかない。
彼の場合は後者で、王国直属の研究者だ。
聞いた話によると、この国一番の頭脳を持ち、様々な魔道具や薬などを開発してきたとか。
ここ数年の急激な発展を支えているのは、ナベリス博士だと言われている。
初めて会った日は、そんなに凄い人だとは思えなかったけど。
「おい、また失礼なことを考えているだろ?」
「気のせいだと思います」
「そうか」
王国一の頭脳を持っているけどちょっぴり天然な博士。
部屋の片づけが出来なかったり、常識に疎かったりするのもその所為。
加えて極度の人見知りで、わたしより酷い。
こんな場所で研究をしているのも、極力他人と関わらないようにするためらしい。
「終わったか」
「はい」
片づけが終わり、やっと博士の所まで道が出来た。
たぶん、また明日にはなくなっている道だけど、博士だし仕方がない。
「終わったのなら手伝ってくれ」
「何をすればいいですか?」
「この数値を全てあちらへ移したい」
「全部ですか?」
「全部だ」
博士の手元には、難しい計算式の書かれた紙がずらっと並んでいる。
これらすべての数字を、研究用に開発された装置に入力していく。
文字や映像を投影して、情報や演算結果を処理できる装置で、博士が開発した物の一つだそう。
「一人では手が足らん」
「……でしょうね」
量的には二人で頑張っても一日で終わらない。
こんな量の情報を、午前中のうちに仕上げていたのか。
「この情報って……」
「何を今さら、君の持つ聖女の力についてだ」
博士はここで、様々なことについて研究している。
軍事用の魔道具の開発から、民間で使われる薬の調合まで。
あらゆることを博士は一人でこなしてきた。
そんな博士が取り組んでいるのは――
聖女の持つ治癒力、免疫力を他者に与える方法について。
わたしたち聖女は、神様の加護を受けている。
祈りを捧げれば、傷を癒したり、病を治癒させたりもできる。
そして、わたしたち自身も高い治癒能力と、病気に対する免疫力を持っている。
三姉妹は全員、一度も病気にかかったことがないのはその影響だ。
「君の持つ聖女の免疫力。それが他者に分け与えることが出来れば、人々の平均寿命は飛躍的に伸びる。それどころか、従来の薬が必要なくなる」
「そんなこと……本当に出来るんですか?」
「さぁな。それを確かめるために、僕はこうして研究を続けているんだ」
博士はそう言って、わたしに目を向ける。
「君だって、最初から聖女だったわけではないのだろう?」
「そう……ですね」
「ならば可能性はゼロではない。少なくともボクはそう思っているし、そうでなければ、わざわざ君を助手に選んだりしないよ」
そう、わたしは博士の助手としても働いている。
博士にとってわたしは、自分の研究を有意義に進めるためのパーツだ。
もしもわたしが聖女でなかったら、博士はわたしに見向きもしないだろう。
出会いも、ここに至るまでの経緯も、ほとんどが偶然だった。
それでも良い。
偶然というのは、運命と言い換えることが出来るから。
わたしにとって、博士との出会いは運命だったと思うから。
「何をぼさっとしている? さっさと手を動かせ」
「はい」
口が悪くて、デリカシーのない人。
だけど、わたしを必要としてくれた人だから。
「あぁ、そうだ。身体を調べたいから、後で裸になってもらえるか?」
「――えっ?」
「何だ? なぜ嫌そうな顔をしている?」
「嫌に決まってます」
「そうか。ならば仕方がない。ボクも脱ぐからお相子ということでどうだ?」
「馬鹿ですね」
「なっ……」
頭が良い人って、一周回って馬鹿なのかな?