聖女三姉妹 ~本物は一人、偽物二人は出て行け? じゃあ三人で出て行きますね~

 それはまだ、わたしたち三姉妹がグレンベルの街にきたばかりの頃。
 三人で街を散策している時、ふと目に入った建物。
 それがグレンベル大図書館だった。

「おっきー」
「図書館って書いてあるわね」
「……入ってみても良い?」
「時間はあるし良いわよ」

 三人で中へ入る。
 中は王国の書斎よりも数倍大きかった。
 並べられている本も、見たことのない本が多い。
 
「……凄い」

 出てきた感想はシンプル。
 この瞬間、わたしはグレンベル大図書館で働くと決めた。

 翌々日。
 今度は一人で訪れた。
 本を読みに来たのではなく、司書として働くために来た。
 真っすぐ受付に回って、勇気を出して話しかける。

「あ、あの……すみません」
「はい。本をお探しでしょうか?」
「い、いえ……本ではなくて、その……」

 いざ話しかけてみると、恥ずかしくなって上手く言葉が出ない。
 言いたいことは決まっているのに、どうしても声がどもってしまう。
 受付のお姉さんは首を傾げていた。

「どうされました?」
「す、すみません。何でもないです」

 結局、一回目のチャレンジは失敗してしまった。
 わたしは図書館の奥に行き、人気のなさそうな場所を見つけてため息をもらす。

「はぁ……」

 自分が人と話すのが苦手だと自覚している。
 それでも、多少は慣れたと思っていた。
 聖女として王国で活動して、たくさんの人と交流して、少しはマシになったと。
 だけどそれは勘違いだった。
 あの時、普通に振舞えていたのは、皆が聖女に会いに来ていたから。
 明確な目的があって、向こうから話しかけてくれたからだ。

「結局……自分から話すなんて無理なんだ」

 わたしは自分が情けない。
 アイラのように器用であれば……とか。
 サーシャちゃんみたいに明るい性格なら、こんなにも困ることはなかったのに。
 
「はぁ……どうしよう」

 そう呟いて、わたしは不意に本棚に手を伸ばす。
 すると――

「えっ」

 本棚にするりと手が入り込んでしまった。
 壁にもたれかかるような感じで出した手は、何もない空へ沈んでいく。

「わt、わわ!」
 
 思わぬことで身体が言うことを聞かず、わたしは前に倒れ込み膝をついてしまう。
 その折に上半身が本棚にめり込み、隠し階段を見つけた。

「これ……」

 どうしてこんな場所に階段があるのだろう?
 おそらく魔法の一種で、階段が隠されていることを理解した。
 わたしは何となく、興味本位で階段を下りてみることに。
 そうしてたどり着いたのが、彼のいる研究室だった。

「誰だ?」
「えっ、あの、えっと……」
「ん、見ない顔だな? どうやって入って――っ」

 彼はわたしに気付いて持っていた書類を置いた。
 そのときに指を切ってしまった様子。 
 指から流れる血を見て、わたしの身体は勝手に動く。

「見せてください」
「別にこれくらい平気だが? それより君は」
「いいから見せてください」

 傷を見ると、自分がやらなきゃって思えてしまう。
 聖女としての本能なのか、これまでの習慣が根付いているのか。
 どちらにしろ、わたしは彼の手をとっていた。
 軽い傷でも菌が入れば大事に繋がる。
 それを知っているから、わたしは祈りを捧げて治療した。

「――これは魔法ではない?」

 わたしの祈りを見て、彼は驚きわたしの手を握る。

「へぇ?」
「今のは何だ? 魔法ではないな?」
「え、えっと……わたしは聖女なので」
「聖女? 確か西の国に……詳しく話を聞かせてくれ」

 それからわたしは、ぐいぐい来る彼に押されて、聖女のことを話した。
 これって話しても良かったのかな?
 なんて後になってから思ったけど、全部話し終わっていたからもう遅い。

「なるほどなるほど、実に面白い力だ」
「あの……わたしそろそろ」
「よし決めた! 君、名前は何と言うんだ?」
「え、カリナです」
「カリナ、君は今日から僕の助手として、この研究室で働いてもらう」
「え……えぇ!?」

 思わぬ展開に驚いて、自分でもびっくりするくらい大きな声が出た。
 研究室?
 助手?
 全然話がわからない。
 わからないけど、断らないと駄目だと思った。

「わ、わたし! この図書館の司書になりたくて」
「ん? あぁ、だったら僕から館長に伝えておこう。司書兼助手として働いてくれるなら問題はない」
「ちょっ……」
「先に言っておくが、君に拒否権はないぞ? ここは本来関係者以外立ち入り禁止だ。国家機密も多数保管されている。許可なく入れば重罪だ」

 えぇ……開いてたのに?
 とか思ったけど、恐ろしくて言葉に出せなかった。
 重罪なんてことを言われたら、もう言い返しようがない。
 ここでわたしが答えるべきは一つ。

「わかりました」
「決まりだな。僕はナベリス。ナベリス・グローマンだ」

 こうして、わたしは博士の助手として働くことになった。
 その後で本当にミーア館長に推薦してもらえて、晴れて司書としても採用された。
 結果的に司書にはなれたし、ある意味では有難かったかもしれない。
< 25 / 50 >

この作品をシェア

pagetop