聖女三姉妹 ~本物は一人、偽物二人は出て行け? じゃあ三人で出て行きますね~
四
最初の朝は、とても憂鬱だった。
念願だった司書になれたというのに、身体が起きるのを拒んでいる感じがする。
大きな図書館で本に囲まれながら仕事が出来るなんて、わたしにとっては夢のような環境だ。
ただ一つ、余計なものが付いていなければ……
「はぁ」
「カリナお姉ちゃんどうしたの?」
「元気ないわね。今日から司書のお仕事でしょ?」
「もっとシャキッとしなきゃダメだよ~」
「……うん」
妹にも言われてしまった。
億劫なのを態度に出してはいけない。
司書のお仕事でも、知らない人と話したりするわけで、本を読んでいればいいわけじゃないから。
「よし!」
気合を入れよう。
余計なものに関しては一先ず忘れて、司書としてしっかり働かなくちゃ。
自分にそう言い聞かせ、わたしは図書館へと足を運んだ。
三度目になる図書館への来館。
今度はお客さんとしてではなく、働く従業員としてだ。
「えっと……」
初日は館長さんが仕事の説明をしてくれる予定になっている。
わたしは中へ入ってから、受付の近くをキョロキョロしていた。
すると、後ろからトントンと肩をたたかれる。
「おはよう、貴女がカリナさんね?」
「は、はい!」
振り向くとお淑やかな年上の女性が立っていた。
ニコリと優しく微笑んでいる。
胸に館長と書かれた名札が見える。
「初めまして、私が館長のミーアよ」
「カリナです。よ、よろしくお願いします!」
「はい、よろしくお願いします。じゃあこっちに来てもらえるかしら?」
そう言って案内されたのは、職員用の更衣室だった。
縦長の棚が並んでいて、服が綺麗に入っている。
「この服に着替えて」
「はい!」
わたしは言われた通り、用意された服に着替える。
受付の人が着ていた服と同じだ。
決して派手じゃないけど、清楚で図書館で働く人って感じがする。
ジーっと視線を感じる。
着替えているわたしを、ミーア館長が見つめていた。
「あ、あの……変ですか?」
「ううん。とっても似合っているわ」
「そ、そうですか」
「ええ。それに聞いていた通り、素敵な髪色ね。目も澄んでいて綺麗だわ」
「ありがとう……ございます」
急に褒められて戸惑ってしまう。
どんな反応が正しいのかわからないから、オドオドとして目を逸らす。
そういえば今……
「聞いていた通り?」
「ええ、ナベリスが教えてくれたのよ。髪と目が綺麗な女性だったって」
「そ、そうだったんですね」
思わぬ流れで彼の名前を耳にして、素直に驚いてしまう。
わたしが覚えている限りの印象では、そんな風に人を褒めるような感じはしなかったから。
髪と目が綺麗な女性……
そっか、そうなんだ。
「司書の仕事も彼からの推薦よね?」
「は、はい」
「正直最初は驚いたわ。彼が他人を推すなんて信じられなかったもの」
「そ、そうなんですか?」
「そうよ。彼は物凄く人間嫌いで偏屈なの。だから本当に気に入られたのね」
何とも複雑な気持ちになる。
彼のお陰で司書になれたし、感謝はしているけど。
純粋に喜べないから、今は少し申し訳なくすら思っている。
「午前中はこっちの仕事を頑張ってもらうけど、午後からは彼のいる研究室に行ってね。そういう約束になっているから」
「はい。が、頑張ります」
「ええ。彼のこともよろしく頼むわ」
そんな感じに、司書兼助手としての仕事が始まった。
司書のお仕事は、わたしが予想していたよりも覚えることが多かった。
午前中は心の中で弱音を吐きながら仕事を覚えて、あっという間に正午を過ぎる。
そして――
「アペレート」
教えてもらった秘密の合言葉を口にして、彼のいる研究室へ足を運ぶ。
「こ、こんにちは」
「ん? ようやく来たか。待ちくたびれたぞ」
四角い部屋の奥に椅子と机がある。
彼はそこに座っていて、机の上には大量の書類が山積みにされていた。
床にも本や書類、見たことのない物が散乱していて足の踏み場もない。
他にもガラス瓶のついた魔道具があったり。
左右の本棚には、難しい題名の本がびっしりと並んでいる。
「さぁこっちへ来てくれ。今日は聞きたいことがたくさんある」
「聞きたいことですか?」
「ああ。この間の話でいくつか疑問点が浮かんだものでな。それを踏まえ、君のことをより深く理解したいと思っている」
深く理解って……聖女のことでいいよね?
何だか内容だけだど、口説かれているようにも聞こえる。
というか、それよりまず……
「あの……」
「何だ?」
「片付けてもいいですか? そっちに行けないので」
「あぁ……そうだな。では頼む」
助手としての最初のお仕事は、散らかった部屋の片づけだった。
これが毎日の日課になるなんて、この時はまだ考えもしていない。
「終わりました」
「うむ、ご苦労だった」
一時間くらいかけて、部屋の掃除を終わらせた。
ようやく足の踏み場が出来て、彼の所まで近づける。
「ではさっそく聞かせてくれ」
「えっと……何から話せばいいですか?」
「そうだな。生まれた日、場所、時間、家族構成は必要だな。食生活に運動習慣も聞かせてくれ。それと後で身体測定もさせてもらう予定だ」
「えぇ……」
初めての出勤は、最高にハードな一日になりそうだ。
念願だった司書になれたというのに、身体が起きるのを拒んでいる感じがする。
大きな図書館で本に囲まれながら仕事が出来るなんて、わたしにとっては夢のような環境だ。
ただ一つ、余計なものが付いていなければ……
「はぁ」
「カリナお姉ちゃんどうしたの?」
「元気ないわね。今日から司書のお仕事でしょ?」
「もっとシャキッとしなきゃダメだよ~」
「……うん」
妹にも言われてしまった。
億劫なのを態度に出してはいけない。
司書のお仕事でも、知らない人と話したりするわけで、本を読んでいればいいわけじゃないから。
「よし!」
気合を入れよう。
余計なものに関しては一先ず忘れて、司書としてしっかり働かなくちゃ。
自分にそう言い聞かせ、わたしは図書館へと足を運んだ。
三度目になる図書館への来館。
今度はお客さんとしてではなく、働く従業員としてだ。
「えっと……」
初日は館長さんが仕事の説明をしてくれる予定になっている。
わたしは中へ入ってから、受付の近くをキョロキョロしていた。
すると、後ろからトントンと肩をたたかれる。
「おはよう、貴女がカリナさんね?」
「は、はい!」
振り向くとお淑やかな年上の女性が立っていた。
ニコリと優しく微笑んでいる。
胸に館長と書かれた名札が見える。
「初めまして、私が館長のミーアよ」
「カリナです。よ、よろしくお願いします!」
「はい、よろしくお願いします。じゃあこっちに来てもらえるかしら?」
そう言って案内されたのは、職員用の更衣室だった。
縦長の棚が並んでいて、服が綺麗に入っている。
「この服に着替えて」
「はい!」
わたしは言われた通り、用意された服に着替える。
受付の人が着ていた服と同じだ。
決して派手じゃないけど、清楚で図書館で働く人って感じがする。
ジーっと視線を感じる。
着替えているわたしを、ミーア館長が見つめていた。
「あ、あの……変ですか?」
「ううん。とっても似合っているわ」
「そ、そうですか」
「ええ。それに聞いていた通り、素敵な髪色ね。目も澄んでいて綺麗だわ」
「ありがとう……ございます」
急に褒められて戸惑ってしまう。
どんな反応が正しいのかわからないから、オドオドとして目を逸らす。
そういえば今……
「聞いていた通り?」
「ええ、ナベリスが教えてくれたのよ。髪と目が綺麗な女性だったって」
「そ、そうだったんですね」
思わぬ流れで彼の名前を耳にして、素直に驚いてしまう。
わたしが覚えている限りの印象では、そんな風に人を褒めるような感じはしなかったから。
髪と目が綺麗な女性……
そっか、そうなんだ。
「司書の仕事も彼からの推薦よね?」
「は、はい」
「正直最初は驚いたわ。彼が他人を推すなんて信じられなかったもの」
「そ、そうなんですか?」
「そうよ。彼は物凄く人間嫌いで偏屈なの。だから本当に気に入られたのね」
何とも複雑な気持ちになる。
彼のお陰で司書になれたし、感謝はしているけど。
純粋に喜べないから、今は少し申し訳なくすら思っている。
「午前中はこっちの仕事を頑張ってもらうけど、午後からは彼のいる研究室に行ってね。そういう約束になっているから」
「はい。が、頑張ります」
「ええ。彼のこともよろしく頼むわ」
そんな感じに、司書兼助手としての仕事が始まった。
司書のお仕事は、わたしが予想していたよりも覚えることが多かった。
午前中は心の中で弱音を吐きながら仕事を覚えて、あっという間に正午を過ぎる。
そして――
「アペレート」
教えてもらった秘密の合言葉を口にして、彼のいる研究室へ足を運ぶ。
「こ、こんにちは」
「ん? ようやく来たか。待ちくたびれたぞ」
四角い部屋の奥に椅子と机がある。
彼はそこに座っていて、机の上には大量の書類が山積みにされていた。
床にも本や書類、見たことのない物が散乱していて足の踏み場もない。
他にもガラス瓶のついた魔道具があったり。
左右の本棚には、難しい題名の本がびっしりと並んでいる。
「さぁこっちへ来てくれ。今日は聞きたいことがたくさんある」
「聞きたいことですか?」
「ああ。この間の話でいくつか疑問点が浮かんだものでな。それを踏まえ、君のことをより深く理解したいと思っている」
深く理解って……聖女のことでいいよね?
何だか内容だけだど、口説かれているようにも聞こえる。
というか、それよりまず……
「あの……」
「何だ?」
「片付けてもいいですか? そっちに行けないので」
「あぁ……そうだな。では頼む」
助手としての最初のお仕事は、散らかった部屋の片づけだった。
これが毎日の日課になるなんて、この時はまだ考えもしていない。
「終わりました」
「うむ、ご苦労だった」
一時間くらいかけて、部屋の掃除を終わらせた。
ようやく足の踏み場が出来て、彼の所まで近づける。
「ではさっそく聞かせてくれ」
「えっと……何から話せばいいですか?」
「そうだな。生まれた日、場所、時間、家族構成は必要だな。食生活に運動習慣も聞かせてくれ。それと後で身体測定もさせてもらう予定だ」
「えぇ……」
初めての出勤は、最高にハードな一日になりそうだ。