聖女三姉妹 ~本物は一人、偽物二人は出て行け? じゃあ三人で出て行きますね~
五
仕事初日を終えた帰り道は、驚くほど足が重たかった。
家に帰ってご飯を食べている間も、疲れの所為で眠気が酷い。
うとうとしていると、アイラが心配そうな顔をして尋ねてくる。
「カリナ大丈夫?」
「大丈夫」
「すっごく眠そうだね~」
「うん」
わたしは適当に答えていた。
アイラが続けて言う。
「司書のお仕事ってそんなに大変なの?」
「大変だけど……これは別の疲れで」
「別?」
ここでハッと気づいて目がさえる。
研究室やナベリス博士のことは、国が管理している秘密。
家族と言えど、無暗に教えるのは違反となり罰せられる危険性がある。
わたしは慌てて誤魔化す。
「ううん、覚えることが多くて大変なの」
「そう? あんまり無理はしちゃ駄目よ?」
「うん。ありがとう」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
二日目の出勤。
わたしは図書館に到着すると、教えられた通りに服を着替えた。
すでにミーア館長が待っていて、わたしに話しかけてくる。
「おはよう。昨日の疲れはとれたかしら?」
「えっと、はい」
「そう。じゃあ昨日の復習から始めましょうか」
午前中は変わらず館長に仕事を教えてもらう。
昨日教えてもらった所は、何とか覚えていて実践できた。
ほっとしつつも次の仕事がある。
初日に続いて二日目もハードだ。
「じゃあ午後はお願いするわね」
「はい」
午後は研究室でナベリス博士の助手として働く。
たくさん質問された翌日だから、少し行くのが億劫だ。
それでも足を進め、研究室に入って驚かされる。
「えっ……」
「来たか」
「あの、何でもう散らかっているんですか?」
足の踏み場のない部屋。
昨日と全く同じ状況が、二日目にも起こっていた。
さすがのわたしも呆れてしまって、彼に視線を送る。
「あぁ……すまない。昨日の話をまとめていたんだが、中々上手くいかなくてな」
そう言っている彼の目元には、真黒な隈が出来ている。
もしかして昨日は寝ていないのかも。
「今日も新しくわいた疑問を処理したい」
「その前に片付けます」
「そうだな、頼む」
二日目も変わらず質問攻め。
昨日も散々質問したのに、よく新しい質問が出てくるものだ。
呆れを通り越して感心してしまう。
三日目。
同じように午前中は司書として働き、午後は助手として研究室へ。
またしても散らかった部屋を見て、さすがのわたしもため息を漏らす。
「またですか……」
「すまないな。色々と手が回らんのだ」
博士の目元に視線がいく。
昨日よりも真っ黒だ。
間違いなく徹夜しているのだろう。
顔色も良くないからわかる。
「寝たほうが良いと思います」
「そうだな。今取り掛かっている研究がひと段落つけば休むつもりだ」
そんなことを言っていた四日目。
またしても散らかった部屋になっている。
それ以上に驚きなのは、博士の隈がさらに濃くなっていることだった。
「また寝ていないんですか?」
「ああ」
「身体に悪いです」
「わかっている。だがこれを終わらせてから……」
と言いながら、博士はふらついている。
今にも倒れてしまいそうだった。
そんな様子を見せられ、わたしの中の聖女だった自分が騒ぎ出す。
「寝てください」
「いや、これを――」
「いいから寝てください。でないと答えません」
「ぅ……わ、わかった」
博士はしぶしぶ研究室のソファーで横になる。
その数秒後には、穏やかな寝息を立てていた。
やはり眠気を我慢していたようだ。
わたしは純粋に、どうしてそこまで頑張れるんだろうと思った。
それと同じくらい思うことがある。
「何で……わたしを助手にしたのかな?」
ぼそりと呟いて、毛布をかけた。
その後は部屋の片づけを済ませて、研究室を後にする。
「あら? どうしたの?」
ちょうどそこをミーア館長に見られて声をかけられた。
わたしは事情を説明した。
「へぇ~ 彼が言うことを聞いたのね」
「はい、一応……」
「そう」
「あの……どうして博士は、無理をしてまで研究をしているんですか?」
ミーア館長なら知っていると思った。
わたしが質問すると、彼女は優しく微笑んで言う。
「それは自分で聞きなさい。彼が起きてからね」
ポンと肩をたたかれる。
何か意味がありそうだったけど、それ以上は教えてくれなかった。
結局、その日から博士は二日間眠り続け、起きたのは三日後の昼。
わたしが研究室を尋ねると――
「うぅ……うーん!」
「あっ、お目覚めですか?」
「あぁ、君か。今は何時だ?」
「十二時十分です」
博士が時計をぼーっと見つめる。
まだ寝ぼけているのかもしれない。
「何日たっている?」
「えっと、三日です」
「そうか。思いのほか早かったんだな」
どうやらもっと長く眠っていることもあるらしい。
博士の徹夜癖は、ずっと前から続いているのか。
病気の研究や薬を作っている人が、一番健康から遠い生活をしているなんて皮肉なことだと思った。
「では続きを始めようか」
「あの、その前に一つだけ……」
「何だ? 質問か?」
「はい」
「そうか。まぁ良いだろう。何が知りたい?」
わたしはモジモジしながらも、博士に尋ねる。
「どうして……そんなに頑張れるんですか?」
家に帰ってご飯を食べている間も、疲れの所為で眠気が酷い。
うとうとしていると、アイラが心配そうな顔をして尋ねてくる。
「カリナ大丈夫?」
「大丈夫」
「すっごく眠そうだね~」
「うん」
わたしは適当に答えていた。
アイラが続けて言う。
「司書のお仕事ってそんなに大変なの?」
「大変だけど……これは別の疲れで」
「別?」
ここでハッと気づいて目がさえる。
研究室やナベリス博士のことは、国が管理している秘密。
家族と言えど、無暗に教えるのは違反となり罰せられる危険性がある。
わたしは慌てて誤魔化す。
「ううん、覚えることが多くて大変なの」
「そう? あんまり無理はしちゃ駄目よ?」
「うん。ありがとう」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
二日目の出勤。
わたしは図書館に到着すると、教えられた通りに服を着替えた。
すでにミーア館長が待っていて、わたしに話しかけてくる。
「おはよう。昨日の疲れはとれたかしら?」
「えっと、はい」
「そう。じゃあ昨日の復習から始めましょうか」
午前中は変わらず館長に仕事を教えてもらう。
昨日教えてもらった所は、何とか覚えていて実践できた。
ほっとしつつも次の仕事がある。
初日に続いて二日目もハードだ。
「じゃあ午後はお願いするわね」
「はい」
午後は研究室でナベリス博士の助手として働く。
たくさん質問された翌日だから、少し行くのが億劫だ。
それでも足を進め、研究室に入って驚かされる。
「えっ……」
「来たか」
「あの、何でもう散らかっているんですか?」
足の踏み場のない部屋。
昨日と全く同じ状況が、二日目にも起こっていた。
さすがのわたしも呆れてしまって、彼に視線を送る。
「あぁ……すまない。昨日の話をまとめていたんだが、中々上手くいかなくてな」
そう言っている彼の目元には、真黒な隈が出来ている。
もしかして昨日は寝ていないのかも。
「今日も新しくわいた疑問を処理したい」
「その前に片付けます」
「そうだな、頼む」
二日目も変わらず質問攻め。
昨日も散々質問したのに、よく新しい質問が出てくるものだ。
呆れを通り越して感心してしまう。
三日目。
同じように午前中は司書として働き、午後は助手として研究室へ。
またしても散らかった部屋を見て、さすがのわたしもため息を漏らす。
「またですか……」
「すまないな。色々と手が回らんのだ」
博士の目元に視線がいく。
昨日よりも真っ黒だ。
間違いなく徹夜しているのだろう。
顔色も良くないからわかる。
「寝たほうが良いと思います」
「そうだな。今取り掛かっている研究がひと段落つけば休むつもりだ」
そんなことを言っていた四日目。
またしても散らかった部屋になっている。
それ以上に驚きなのは、博士の隈がさらに濃くなっていることだった。
「また寝ていないんですか?」
「ああ」
「身体に悪いです」
「わかっている。だがこれを終わらせてから……」
と言いながら、博士はふらついている。
今にも倒れてしまいそうだった。
そんな様子を見せられ、わたしの中の聖女だった自分が騒ぎ出す。
「寝てください」
「いや、これを――」
「いいから寝てください。でないと答えません」
「ぅ……わ、わかった」
博士はしぶしぶ研究室のソファーで横になる。
その数秒後には、穏やかな寝息を立てていた。
やはり眠気を我慢していたようだ。
わたしは純粋に、どうしてそこまで頑張れるんだろうと思った。
それと同じくらい思うことがある。
「何で……わたしを助手にしたのかな?」
ぼそりと呟いて、毛布をかけた。
その後は部屋の片づけを済ませて、研究室を後にする。
「あら? どうしたの?」
ちょうどそこをミーア館長に見られて声をかけられた。
わたしは事情を説明した。
「へぇ~ 彼が言うことを聞いたのね」
「はい、一応……」
「そう」
「あの……どうして博士は、無理をしてまで研究をしているんですか?」
ミーア館長なら知っていると思った。
わたしが質問すると、彼女は優しく微笑んで言う。
「それは自分で聞きなさい。彼が起きてからね」
ポンと肩をたたかれる。
何か意味がありそうだったけど、それ以上は教えてくれなかった。
結局、その日から博士は二日間眠り続け、起きたのは三日後の昼。
わたしが研究室を尋ねると――
「うぅ……うーん!」
「あっ、お目覚めですか?」
「あぁ、君か。今は何時だ?」
「十二時十分です」
博士が時計をぼーっと見つめる。
まだ寝ぼけているのかもしれない。
「何日たっている?」
「えっと、三日です」
「そうか。思いのほか早かったんだな」
どうやらもっと長く眠っていることもあるらしい。
博士の徹夜癖は、ずっと前から続いているのか。
病気の研究や薬を作っている人が、一番健康から遠い生活をしているなんて皮肉なことだと思った。
「では続きを始めようか」
「あの、その前に一つだけ……」
「何だ? 質問か?」
「はい」
「そうか。まぁ良いだろう。何が知りたい?」
わたしはモジモジしながらも、博士に尋ねる。
「どうして……そんなに頑張れるんですか?」