聖女三姉妹 ~本物は一人、偽物二人は出て行け? じゃあ三人で出て行きますね~
3
小さい頃の私は、貴族とか王族の暮らしに憧れていた。
清潔で豪華な衣装を着て、煌びやかな屋敷に暮らして、優雅なひと時を満喫する生活。
物語に登場するお姫様のように、運命の出会いもあったら良いなと想像していた。
女の子なら、一度はそういう願いを持ったことがあるんじゃないかな?
かくいう私もその一人で、今でも夢に抱いている。
「あれ? アイラお姉ちゃんどこいくの?」
「国王陛下の所よ」
「王様? 何で?」
「もう、忘れたの? 今日は定期報告の日でしょう」
「あぁ~ そうだっけ」
十日に一度、国王陛下に謁見することが定められている。
内容は近況報告が主で、私たち三人のうち一人が出れば良い。
何事もなければ数分で終わる謁見だから、それほど心配することはない。
ただ……
「サーシャも偶には来る?」
「えぇー嫌だよ~ だってあの人も一緒にいるんでしょ?」
「まぁ……そうね」
問題、というか不安なことが一つある。
私はともかく、二人はあの人のことが苦手で、大体いつも陛下と一緒にいるから報告に行きたがらない。
必然的に私が報告へ行くことが多い。
「わかってると思うけど、外では悪口とか言っちゃダメだからね?」
「うぇ~ でもでも、アイラお姉ちゃんだって苦手じゃんか」
「苦手でも仲良くはしておかないとね。私たちの立場が危うくなるわよ」
「うぅ~ ボクはいいよぉ~」
サーシャはいつもこんな感じだ。
カリナは大聖堂に出ているから不在だけど、似たような反応をすると思う。
正直なことを言えば、私だってあまり会いたくない。
「はぁ……」
ため息も出る。
でも、頑張らないといけない。
私の夢を実現するためには、必要なことの一つだから。
そう自分に言い聞かせ、私は一人で王城へと足を運んだ。
王城はいつ見ても大きくて立派だ。
この国で一番偉い人たちが暮らしている場所だし、当然なのだけど魅入ってしまう。
そんな場所に堂々と入れるのも、聖女になった特権だろう。
城内へ入ると、使用人の一人が案内してくれた。
私が向かっているのは玉座の間と呼ばれる部屋。
陛下の謁見の際に使用される大きな部屋で、扉を開けると赤いカーペットが敷かれている。
その先の玉座に座っている人こそ、この国の王様――
「聖女アイラ、よく来てくれたね」
「はい。リンテンス国王陛下」
「うむ。さっそく近況を聞かせてもらえるかな?」
「はい」
話は数分で終わった。
頷きながら聞いていた陛下が、私に向けて言う。
「ありがとう。今後も良き活動を心がけたまえ」
「はい。お任せください」
私は頭を下げた。
今更だけど、陛下の隣にはお付きの騎士がいる。
普段はもう一人、噂のあの人もいるはずだけど、運よく今回は不在のようだ。
「アイラよ、この後はデリントの所へ行ってくれるかな?」
と、ほっとしたのも束の間……
私は心の中で、やっぱりかとつぶやく。
「会いたがっているようだよ」
「かしこまりました」
私はあまり会いたくありません。
なんてことが言える立場じゃないから、素直に従うことにする。
玉座の間を出て二つ先の部屋に、彼が待っているそうだ。
トントントン――
扉をノックし、声をかける。
すると、中から声が聞こえてくる。
「デリント様、アイラです」
「――入りたまえ」
私が扉を開けると、一人の男性がこちらを振り向く。
整った身なりと細身で、髪は明るい茶色。
彼は私の顔を見ると、満面の笑みを浮かべて言う。
「いやぁ~ よく来てくれたね! 会えてうれしいよ、アイラ」
「はい。私もお会いできてうれしく思います。デリント王子」
そう。
彼こそは、イタリカ王国第一王子デリント様。
そして一応……私の婚約者となる予定の人でもある。
「前回の謁見ぶりかな? 君は変わらず美しいね」
「はい。ありがとうございます」
「しかしまた君一人かな? 他の二人とも話をしたかったが、まぁ良しとしよう」
そう言って、デリント王子は私に歩み寄る。
徐に右手を握って、手の甲にキスをして言う。
「君一人でも十分私を満たしてくれるよ。私の愛しいアイラ」
「……ありがとうございます」
ちゃんと笑えているだろうか?
顔の筋肉がひくついている気もするけど、彼は良い表情のままだし誤魔化せているかな。
見ての通り、というか聞いての通り。
デリント王子はちょっとあれだ。
私たちのことを好いてくれるのは嬉しいけど、表現の仕方が独特で……直球で言えば気持ち悪い。
本人に自覚がないのが一番困る。
カリナとサーシャにもこういう態度でくるから、二人は毛嫌いしてしまっている。
「さぁ色々と話を聞かせておくれ。楽しい話をしようじゃないか」
「……はい」
ここから一時間と少し。
彼の部屋で延々と話をさせられる時間が続く。
変なことをされないだけましだけど、時折身体を触ってきたり、髪の匂いを嗅いだりする。
そういう所さえなければ良い人なんだけど……
「また来てくれたまえ! いつでも歓迎するよ」
私の夢。
煌びやかな生活を送るためには、彼と友好な関係を崩すわけにはいかない。
聖女であると言っても、この立場が永遠に続くわけではないのだから。
そう……わかっているのだけど、やっぱり気持ち悪いわ。
清潔で豪華な衣装を着て、煌びやかな屋敷に暮らして、優雅なひと時を満喫する生活。
物語に登場するお姫様のように、運命の出会いもあったら良いなと想像していた。
女の子なら、一度はそういう願いを持ったことがあるんじゃないかな?
かくいう私もその一人で、今でも夢に抱いている。
「あれ? アイラお姉ちゃんどこいくの?」
「国王陛下の所よ」
「王様? 何で?」
「もう、忘れたの? 今日は定期報告の日でしょう」
「あぁ~ そうだっけ」
十日に一度、国王陛下に謁見することが定められている。
内容は近況報告が主で、私たち三人のうち一人が出れば良い。
何事もなければ数分で終わる謁見だから、それほど心配することはない。
ただ……
「サーシャも偶には来る?」
「えぇー嫌だよ~ だってあの人も一緒にいるんでしょ?」
「まぁ……そうね」
問題、というか不安なことが一つある。
私はともかく、二人はあの人のことが苦手で、大体いつも陛下と一緒にいるから報告に行きたがらない。
必然的に私が報告へ行くことが多い。
「わかってると思うけど、外では悪口とか言っちゃダメだからね?」
「うぇ~ でもでも、アイラお姉ちゃんだって苦手じゃんか」
「苦手でも仲良くはしておかないとね。私たちの立場が危うくなるわよ」
「うぅ~ ボクはいいよぉ~」
サーシャはいつもこんな感じだ。
カリナは大聖堂に出ているから不在だけど、似たような反応をすると思う。
正直なことを言えば、私だってあまり会いたくない。
「はぁ……」
ため息も出る。
でも、頑張らないといけない。
私の夢を実現するためには、必要なことの一つだから。
そう自分に言い聞かせ、私は一人で王城へと足を運んだ。
王城はいつ見ても大きくて立派だ。
この国で一番偉い人たちが暮らしている場所だし、当然なのだけど魅入ってしまう。
そんな場所に堂々と入れるのも、聖女になった特権だろう。
城内へ入ると、使用人の一人が案内してくれた。
私が向かっているのは玉座の間と呼ばれる部屋。
陛下の謁見の際に使用される大きな部屋で、扉を開けると赤いカーペットが敷かれている。
その先の玉座に座っている人こそ、この国の王様――
「聖女アイラ、よく来てくれたね」
「はい。リンテンス国王陛下」
「うむ。さっそく近況を聞かせてもらえるかな?」
「はい」
話は数分で終わった。
頷きながら聞いていた陛下が、私に向けて言う。
「ありがとう。今後も良き活動を心がけたまえ」
「はい。お任せください」
私は頭を下げた。
今更だけど、陛下の隣にはお付きの騎士がいる。
普段はもう一人、噂のあの人もいるはずだけど、運よく今回は不在のようだ。
「アイラよ、この後はデリントの所へ行ってくれるかな?」
と、ほっとしたのも束の間……
私は心の中で、やっぱりかとつぶやく。
「会いたがっているようだよ」
「かしこまりました」
私はあまり会いたくありません。
なんてことが言える立場じゃないから、素直に従うことにする。
玉座の間を出て二つ先の部屋に、彼が待っているそうだ。
トントントン――
扉をノックし、声をかける。
すると、中から声が聞こえてくる。
「デリント様、アイラです」
「――入りたまえ」
私が扉を開けると、一人の男性がこちらを振り向く。
整った身なりと細身で、髪は明るい茶色。
彼は私の顔を見ると、満面の笑みを浮かべて言う。
「いやぁ~ よく来てくれたね! 会えてうれしいよ、アイラ」
「はい。私もお会いできてうれしく思います。デリント王子」
そう。
彼こそは、イタリカ王国第一王子デリント様。
そして一応……私の婚約者となる予定の人でもある。
「前回の謁見ぶりかな? 君は変わらず美しいね」
「はい。ありがとうございます」
「しかしまた君一人かな? 他の二人とも話をしたかったが、まぁ良しとしよう」
そう言って、デリント王子は私に歩み寄る。
徐に右手を握って、手の甲にキスをして言う。
「君一人でも十分私を満たしてくれるよ。私の愛しいアイラ」
「……ありがとうございます」
ちゃんと笑えているだろうか?
顔の筋肉がひくついている気もするけど、彼は良い表情のままだし誤魔化せているかな。
見ての通り、というか聞いての通り。
デリント王子はちょっとあれだ。
私たちのことを好いてくれるのは嬉しいけど、表現の仕方が独特で……直球で言えば気持ち悪い。
本人に自覚がないのが一番困る。
カリナとサーシャにもこういう態度でくるから、二人は毛嫌いしてしまっている。
「さぁ色々と話を聞かせておくれ。楽しい話をしようじゃないか」
「……はい」
ここから一時間と少し。
彼の部屋で延々と話をさせられる時間が続く。
変なことをされないだけましだけど、時折身体を触ってきたり、髪の匂いを嗅いだりする。
そういう所さえなければ良い人なんだけど……
「また来てくれたまえ! いつでも歓迎するよ」
私の夢。
煌びやかな生活を送るためには、彼と友好な関係を崩すわけにはいかない。
聖女であると言っても、この立場が永遠に続くわけではないのだから。
そう……わかっているのだけど、やっぱり気持ち悪いわ。