聖女三姉妹 ~本物は一人、偽物二人は出て行け? じゃあ三人で出て行きますね~
十
陽気に照らされたテラス。
わたしと博士は二人きりで、ムードも良い。
いつになく真剣な表情の博士が、わたしの手を握って言う。
「カリナ、僕と結婚してくれないか?」
「え……えぇ!?」
「僕は君を愛しているんだ」
あまりにも突然の言葉に、わたしは動揺を隠せない。
押し寄せる恥ずかしさから顔を隠そうとしても、強く握られた博士の手がそれをさせない。
博士はじっとわたしを見つめている。
「あ、あの……」
「君の気持を聞かせてくれないか?」
「わ、わたしは……」
わたしの気持ちは?
そう思った時、視界が晴れていく。
真っ白になって、瞼を開き見えたのは、見慣れた天井だった。
「……夢?」
なんという夢を見るのだろう。
自分でも恥ずかしくて、布団をかぶりなおす。
忘れてしまえる夢なら良かったのに、目覚めてからもハッキリと覚えている。
「わたしの気持ち……」
もしも夢じゃなかったのなら、何て答えていただろう?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
とある日の午後。
わたしはいつも通り、研究室で博士の助手として働いていた。
「お邪魔するわよ」
「ミーア館長?」
「頑張ってるかしら?」
「はい。珍しいですね、館長がここへ来るなんて」
「ええ、ちょっと用事があってね」
そう言って、館長は博士のほうに近づいていく。
博士は気付いている様子だが、あえて無視しているように見える。
よく見ると、館長は一冊の薄い本を持っていた。
それを博士の前にバンと置き、広げて見せる。
「ナベリス! 貴方にお見合いの話が来ているわよ」
「おっ……」
お見合い!?
それってつまり……縁談の話?
わたしは密かに、心の中で動揺していた。
当の本人である博士は、それを聞くなり大きなため息をこぼす。
「またか……毎度断っているはずだが?」
「だから新しく持って来たのよ」
「相変わらずお節介な女だ」
どうやら初めてではないらしい。
呆れる博士と、少し強引にお見合いの資料を見せようとする館長。
前々から思っていたけど、二人はどういう関係なのだろう。
気になったわたしは、遠回しに聞いてみることにした。
別にお見合いが気になるわけじゃなく……
「あ、あのお見合いって?」
「えっ? ああ、ナベリスも今年で二十五でしょ? もうそろそろ相手を見つけたほうが良いと思ってね」
「余計なお世話だと言っている」
「そういうわけにもいかないわ。レレイナさんに頼まれているもの」
「レレイナさん?」
「僕の母だ」
博士のお母さん――
確か、流行病で倒れてしまったっていう。
「あら? もしかして伝えてなかったの?」
「えっ、あの……」
わたしが困っていると、館長は博士に目を向ける。
博士は黙って目を瞑った。
それを見て、館長は小さくため息をつき、わたしに向って言う。
「私とレレイナさんは古い友人なの。元々一緒の村で生まれて、先に私がクレンベルに来たのよ」
「そ、そうだったんですか?」
「ええ。だからナベリスのことも小さい頃から知っているわ」
「僕は覚えていないけどね」
それは嘘だとすぐにわかる。
今までにも何度か感じたけど、博士は館長のことが苦手に見える。
その理由が今、ようやくわかった。
「貴方が最高の奥さんを貰えるように! ってお願いされてるのよ。あの人は子供の幸せを何より大事にしている人だったから」
館長は懐かしそうに語っていた。
昔を思い出しているのだろう。
わたしだけが知らない、博士のお母さんの思い出。
ちょっぴり羨ましく思えるのは、わがままなのかな。
「そういうわけだから! ナベリス! そろそろ良い人の一人も見つけてきたらどうなの?」
「前々から言っているだろう? 僕は恋愛なんて微塵も興味がない。そんなものに時間をかけるなら、研究資料を作る」
「もう……そうなんだから私が見つけてきてあげているんでしょう?」
「余計なお世話だ。さっきも言っただろう」
「余計でも世話するわよ。レレイナさんとの約束だってさっきも言ったはずよ?」
「くっ……母さんの名を使うなど卑怯者め」
顔をしかめる博士。
やっぱり館長のことは苦手らしい。
「はぁ~ 興味ないのはわかったわ。でも一人くらいお見合いを受けたっていいんじゃないのかしら? 良い人と巡り合えるかもしれないわよ」
「ふんっ、受けた所で……いや、まぁよくよく考えるとありかもしれんな」
「あら? 急にどうしたの?」
「いやな。どうせこの先も断り続ければ、鬱陶しく見合いの話を持ってくるのだろう? ならばもういっそのこと見合いを受けて、そのまま婚約だけ済ませれば良いかなと」
「貴方ねぇ……」
館長は呆れている。
対する私は、博士の言っていることに動揺していた。
「本当に興味ないのね」
「そう言っている」
「はぁ……まぁ良いわ。何だかんだで貴方もまじめだし、結婚したら考え方も変わるかもしれないわね」
「ふっ、その期待には応えかねる」
えっ……あれ?
今の話の流れって、博士が誰かと結婚するつもりってこと?
それを館長も認めて……
「じゃあお見合いの話は進めておくわよ」
「ああ、よろしく頼む」
「ちょっ……」
「「ん?」」
「ちょっと待って」
小さく消えそうな声だけど、わたしは二人に物申していた。
それも無意識に。
わたしと博士は二人きりで、ムードも良い。
いつになく真剣な表情の博士が、わたしの手を握って言う。
「カリナ、僕と結婚してくれないか?」
「え……えぇ!?」
「僕は君を愛しているんだ」
あまりにも突然の言葉に、わたしは動揺を隠せない。
押し寄せる恥ずかしさから顔を隠そうとしても、強く握られた博士の手がそれをさせない。
博士はじっとわたしを見つめている。
「あ、あの……」
「君の気持を聞かせてくれないか?」
「わ、わたしは……」
わたしの気持ちは?
そう思った時、視界が晴れていく。
真っ白になって、瞼を開き見えたのは、見慣れた天井だった。
「……夢?」
なんという夢を見るのだろう。
自分でも恥ずかしくて、布団をかぶりなおす。
忘れてしまえる夢なら良かったのに、目覚めてからもハッキリと覚えている。
「わたしの気持ち……」
もしも夢じゃなかったのなら、何て答えていただろう?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
とある日の午後。
わたしはいつも通り、研究室で博士の助手として働いていた。
「お邪魔するわよ」
「ミーア館長?」
「頑張ってるかしら?」
「はい。珍しいですね、館長がここへ来るなんて」
「ええ、ちょっと用事があってね」
そう言って、館長は博士のほうに近づいていく。
博士は気付いている様子だが、あえて無視しているように見える。
よく見ると、館長は一冊の薄い本を持っていた。
それを博士の前にバンと置き、広げて見せる。
「ナベリス! 貴方にお見合いの話が来ているわよ」
「おっ……」
お見合い!?
それってつまり……縁談の話?
わたしは密かに、心の中で動揺していた。
当の本人である博士は、それを聞くなり大きなため息をこぼす。
「またか……毎度断っているはずだが?」
「だから新しく持って来たのよ」
「相変わらずお節介な女だ」
どうやら初めてではないらしい。
呆れる博士と、少し強引にお見合いの資料を見せようとする館長。
前々から思っていたけど、二人はどういう関係なのだろう。
気になったわたしは、遠回しに聞いてみることにした。
別にお見合いが気になるわけじゃなく……
「あ、あのお見合いって?」
「えっ? ああ、ナベリスも今年で二十五でしょ? もうそろそろ相手を見つけたほうが良いと思ってね」
「余計なお世話だと言っている」
「そういうわけにもいかないわ。レレイナさんに頼まれているもの」
「レレイナさん?」
「僕の母だ」
博士のお母さん――
確か、流行病で倒れてしまったっていう。
「あら? もしかして伝えてなかったの?」
「えっ、あの……」
わたしが困っていると、館長は博士に目を向ける。
博士は黙って目を瞑った。
それを見て、館長は小さくため息をつき、わたしに向って言う。
「私とレレイナさんは古い友人なの。元々一緒の村で生まれて、先に私がクレンベルに来たのよ」
「そ、そうだったんですか?」
「ええ。だからナベリスのことも小さい頃から知っているわ」
「僕は覚えていないけどね」
それは嘘だとすぐにわかる。
今までにも何度か感じたけど、博士は館長のことが苦手に見える。
その理由が今、ようやくわかった。
「貴方が最高の奥さんを貰えるように! ってお願いされてるのよ。あの人は子供の幸せを何より大事にしている人だったから」
館長は懐かしそうに語っていた。
昔を思い出しているのだろう。
わたしだけが知らない、博士のお母さんの思い出。
ちょっぴり羨ましく思えるのは、わがままなのかな。
「そういうわけだから! ナベリス! そろそろ良い人の一人も見つけてきたらどうなの?」
「前々から言っているだろう? 僕は恋愛なんて微塵も興味がない。そんなものに時間をかけるなら、研究資料を作る」
「もう……そうなんだから私が見つけてきてあげているんでしょう?」
「余計なお世話だ。さっきも言っただろう」
「余計でも世話するわよ。レレイナさんとの約束だってさっきも言ったはずよ?」
「くっ……母さんの名を使うなど卑怯者め」
顔をしかめる博士。
やっぱり館長のことは苦手らしい。
「はぁ~ 興味ないのはわかったわ。でも一人くらいお見合いを受けたっていいんじゃないのかしら? 良い人と巡り合えるかもしれないわよ」
「ふんっ、受けた所で……いや、まぁよくよく考えるとありかもしれんな」
「あら? 急にどうしたの?」
「いやな。どうせこの先も断り続ければ、鬱陶しく見合いの話を持ってくるのだろう? ならばもういっそのこと見合いを受けて、そのまま婚約だけ済ませれば良いかなと」
「貴方ねぇ……」
館長は呆れている。
対する私は、博士の言っていることに動揺していた。
「本当に興味ないのね」
「そう言っている」
「はぁ……まぁ良いわ。何だかんだで貴方もまじめだし、結婚したら考え方も変わるかもしれないわね」
「ふっ、その期待には応えかねる」
えっ……あれ?
今の話の流れって、博士が誰かと結婚するつもりってこと?
それを館長も認めて……
「じゃあお見合いの話は進めておくわよ」
「ああ、よろしく頼む」
「ちょっ……」
「「ん?」」
「ちょっと待って」
小さく消えそうな声だけど、わたしは二人に物申していた。
それも無意識に。