聖女三姉妹 ~本物は一人、偽物二人は出て行け? じゃあ三人で出て行きますね~

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 デリントがいる部屋からは、王城の出口が見下ろせる。
 窓の近くに立った彼は、正門から出て行くアイラの姿をじっと眺めていた。

「うんうん、今日も綺麗だったなぁ~」

 そう言ってニヤリと笑う。
 彼女が見えなくなった後は、机の引き出しから一枚の写真を取り出す。
 写真に写っているのは、少し幼い頃のアイラだった。

「あぁ~ この頃も可愛らしい。早く私の手で……めちゃくちゃに調教したいものだ」

 第一王子デリント。
 彼は歪んだ性癖の持ち主だった。
 美しく純粋な女性に目がなく、その純粋さを汚し、犯し尽くしたいと心から思っている。
 まだ何色にも染まっていないキャンパスを、自分の思うままに塗りたくる。
 彼は常に、そういう衝動に駆られている。

 デリントは写真に写ったアイラを嘗め回す。

「はぁ……しかし聖女というのは面倒だ。父上や民衆の目があっては、これ以上のことも出来ん」

 すぐにでも手を出したいデリント。
 そんな彼を引き留めているのは、聖女という立場だった。
 聖女である以上、過度な性的要求をすれば、たちまち国王や周囲の耳に入ってしまう。
 しかし聖女こそ、彼が心から求める女性像に他ならない。

 引き出しにはカリナとサーシャの写真もある。
 彼の標的はアイラ一人ではない。
 残りの二人も聖女であるなら、彼が手中に収めたいと思うのは当然のこと。

「ふぅ、まぁいい。方法はいくらでもある。そろそろ、一つ目にうつるとしよう」

 デリントは下衆な笑みを浮かべている。
 これまで彼は、王子の立場や権力を利用し、様々な我儘を通してきた。
 聖女相手ではそれも最大限発揮されない。
 その煩わしさが、彼の性癖を悪化させてしまったと言える。
 今の彼が見ている先は、王国の繁栄でも民の幸福でもない。
 ただ純粋に、己の欲を満たすことだけ。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 始まりは小さな噂に過ぎなかった。
 いいや、噂ではなく疑念だ。
 最初耳にしたときは、今さらそんなことを言うのか、というのが本心だった。
 だってそうでしょう?
 私たちは三人とも聖女で、国の人々も聖女三姉妹なんて呼んでいた。
 認められていたはずなのに、どうして今さら――

 聖女が三人なんてありえない。

 なんて疑念が噂となって広まっているのだろうか?

「聖女様! アイラ様偽物なんかじゃありませんよね? 私たちは信じています」
「はい。主に誓って嘘偽りは有りません」

 大聖堂に訪れる人たちの多くが、私たちに救いを求めている。

「カリナ様にはいつもたくさん相談にのってもらっています。私たちは何があっても、カリナ様を信じています」
「わ、わたしも……皆様の信頼に応えられるよう努力……します」

 それは私たちが聖女だからで、他の誰かが聖女だったとしても変わらない。

「俺たちはサーシャ様を一番に推してるぜ! 姉二人に負けるなよなっ!」
「ありがとう! でもでも、お姉ちゃんたちも本物だよ?」

 故にこそ綻びは大きかった。
 なぜなら彼女たちにとって、聖女は最後の拠り所だから。
 それが偽りだったとすれば、全てが覆ってしまうからだ。
 過度な信頼は時として、鋭い牙となって襲い掛かることがある。
 これから私たちは、それを深く痛感することになった。

「アイラ様こそ本物の聖女だ!」
「何を言うか! カリナ様が本物に違いない!」
「ふざけるのも大概にしろ! 姉二人が偽物で、サーシャ様以外に聖女はいないだろうがっ!」

 三姉妹のうち本物の聖女は一人だけ。
 そんな噂が広まって、尾ひれがついて膨れ上がっている。
 しまいには偽物二人は悪魔の手先だ。
 断罪すべきだという声まで上がっていた。
 
 街では三人それぞれの支持者が徒党を組み、他の支持者の小競り合いが絶えない。
 アイラ派、カリナ派、サーシャ派に三分割された街は、たった数日で穏やかさを失ってしまった。

「ねぇどうするの? 今日も外に出られないよ」
「……みんなが怖い」
「大丈夫よ。きっと国王陛下が何とかしてくださるわ」

 私たちは大聖堂での勤めもしばらくお休みしている。
 小競り合いは暴動まで発展して、大聖堂へ赴くのも危険だからだ。
 どこが発祥の噂かも知らないまま、私たちは身動きがとれなくなってしまっている。
 
 でも、きっと大丈夫だと思っていた。
 結局はただの噂。
 証拠なんて何一つないし、私たちは三人とも聖女の証を持っている。
 容姿も、力もそうだ。
 証明する手段ならいくらでもあるし、今までだって頑張って来た実績もある。
 待っていれば治まるだろう。
 そうでなくても、国王陛下や王子が何とかしてくれるはずだ。

「そうよね。こういう時くらい期待させてよ」

 デリント王子の顔が頭に浮かぶ。
 普段なら絶対に嫌だけど、今は縋るしかない。
 彼の持つ王族の発言力があれば、国民の暴動も治まるはずだ。

 しかし――
 
 一日、二日、一週間。
 どれだけ待っても一向に騒動は収まらない。
 それどころか城内でも派閥がわかれはじめ、収拾がつかなくなっていた。
 このままではいけないと、国王陛下も考えたのだろう。
 私たち三人は、陛下の待つ王座の間に呼ばれていた。
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