聖女三姉妹 ~本物は一人、偽物二人は出て行け? じゃあ三人で出て行きますね~

 一国の王子と対等に並び立てる実績を作れ。
 メルフィス王子の優しい助言を頭に思い浮かべながら、私は夜を過ごすようになった。
 静かな時間に落ち着いて考えてみる。
 でも、中々良いアイデアは浮かばない。
 というより、そんな都合の良いことが思いつくはずもない。

「はぁ~」

 私が好きだった王子様の物語。
 ただの村娘が偶然と度胸で成り上がって、最後には王子妃になる。
 今、私がやろうとしているのはまさしくそれだ。
 物語のような偶然に期待しながら、気長に待つしかないのだろうか。

 翌日――

 私は普段通りに朝食を準備して、サーシャを起こしに行った。

「サーシャ、もう――あれ?」
「えっへへ~ 今日は起きてるんだな~」
「珍しいわね。自分からちゃんと起きれるなんて」

 普段は近づいて声をかけないと起きないのに、私が部屋に入ると着替え終わったサーシャがいた。
 いつになく上機嫌のサーシャを見て、私は尋ねる。

「もしかして、今日は特別な予定でもあったの?」
「う~ん、まだ内緒!」

 そう言いながら、嬉しそうな笑顔を見せている。
 内容はわからないけど、間違いなくこれから良いことがあるに違いない。
 元々元気でニコニコしているサーシャだけど、今日は一段とキラキラしている。
 思い返せば最近も、活き活きとしている感じがした。

「サーシャ」
「なーに?」
「お仕事は楽しい?」
「もちろん!」

 それを聞いて、私は嬉しくて微笑む。
 
 サーシャと一緒に一階へ降りて、朝食をとる。
 さっきの話があった所為か、カリナの近況も気になり始めた。

「ねぇカリナ」
「何?」
「お仕事はどう? 忙しそうだけど」
「まぁ、うん。忙しいけど大丈夫」

 近頃、帰りが遅くなっているカリナ。
 司書のお仕事はパッと想像できなくて、忙しそうだなという感覚だけがある。
 ただカリナの場合、私たちには内緒にしていることがあるみたい。
 どちらかというと、忙しいのはそっちなんじゃないかと予想している。

「本当に大変だった言いなさいよ? 私が手伝えることがあったら手伝うわ」
「ううん、大丈夫。わたしが……自分でやりたいことだから」

 カリナはハッキリと私に言った。
 彼女がそんな風に言うなんて珍しい。
 サーシャと言い、カリナもやりたいことに向って突き進んでいるようだ。

 私も頑張らないと。

 二人の様子に鼓舞されて、心の中でそう呟く。
 色々と考えることが多い毎日だ。
 とにかく今は、私にやれることを精一杯やって、その中で新しいことも見つけよう。
 それに、あの日からハミルと話せていない。
 
「そろそろ会いたいなぁ」

 二人には聞こえない小さな声で、私は自分の気持ちを呟いた。

 それから時間が経過し、聖堂での昼が終わる。
 聖女として役目を果たしながら、頭の片隅には彼のことを考えていた。
 こんな中途半端な姿勢だと、主に呆れられてしまいそうだ。
 そんなことを考えながら、午後のお務めをおえる。
 私は何気なく、裏庭に顔を出した。
 ちょこんと椅子に座り、希望的観測を頭に思い浮かべる。

「ハミル……」
「呼んだか?」
「えっ――あ!」

 壁からひょこっと飛び出した銀色の頭。
 華麗にジャンプして着地して見せたのは、さっきまで頭に思い浮かべていた彼だった。

「よぉ、アイラ。また遊びに来てたぞ」
「うん」
「ん? 何だよ、いつもみたいに抜け出した云々は言わないんだな」
「えっ、ああ……忘れてたよ」

 私はニコリと微笑んで誤魔化す。
 彼に会いたいと思っていたから、いつもの皮肉も出てこなかったな。

「まぁいいや。隣いいか?」
「もちろん」

 ハミルは私の隣に座る。
 この後は大抵、互いの近況を報告し合うのだけど……

「……」
「……」

 何だか気まずくて、話しを切り出し辛い。
 聞きたいことはあるのに、それを口にしてもいいのか悩ましい。
 メルフィス王子との話は、本人から伝えないようにと言われているし。

「なぁアイラ」
「な、何?」
「その……ちょっと前に兄上が帰ってきたんだよ」

 ハミルから話を切り出してくれた。
 私は頷いて、それに合わせる。

「知ってる。あいさつに来てくれたから」
「そうらしいな。で……」
「ん?」
「兄上に変なこと言われなかったか?」

 ハミルは心配そうに私を見つめている。
 その表情を見て私は察する。
 たぶん、ハミルは色々と詰め寄った話をされたのだろう。
 彼からメルフィス王子のことは聞いていて、身内には厳しいと話していたから。

「ううん、ただ挨拶をしただけだよ」
「そ、そうか」

 ほっとしている様子だ。
 嘘をついてしまったけど、王子との約束だから仕方がない。

「俺の方はさ……色々言われたよ」
「色々って?」
「それはまぁ、色々さ。これでも俺は王子だから、考えないといけないこととか、無視できないことも多い」

 知っているよ。
 見て、聞いてきたから。

「儘ならないことばかりだけど、王子だからって自分ことを諦めたくないんだよ。だからさ――」

 ハミルが私を見つめる。
 私も見つめ返す。

「まだ言えないけど、いずれちゃんと伝えるから。それまで待っていてほしい」
「――うん」

 気持ちは同じだと、私たちは確かめ合う。
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