聖女三姉妹 ~本物は一人、偽物二人は出て行け? じゃあ三人で出て行きますね~
Ⅺ
王城から見下ろす景色は、まさに圧巻の一言につきる。
多くの人たちが集まっていた。
見つめる先は一つ。
王族たちが並ぶ位置に、そうでない者が立っている。
それは快挙であり、栄誉であり、私が待ち望んでいたものだった。
「敬愛なる国民諸君! 恐ろしき病は本日をもって根絶された!」
国王様が民衆に告げる。
最初の発見から約一か月半。
新種のウイルスによる感染症拡大は、見事に終結を迎えた。
流行の期間は例年と変わらない。
だけど、その規模と被害は例年の倍以上だった。
当初の予想では、半年以上続くのではないかと言われていたほどだった。
それを一月半で押さえられたのは、多くの人々の努力があってこそ。
それから――
「此度で一番の働きを見せた者をここに! 聖女アイラ、彼女こそ救国の乙女である!」
歓声が沸き起こったのが、遠く離れたここまで届く。
たくさんの人たちが私の名前を叫んでいた。
隣には国王様と一緒に、ハミルの姿もある。
あまり嬉しくない懐かしさを感じる光景だけど、今はそこまで嫌じゃない。
ハミルに頼まれてから今日まで、私は聖女として人々を癒し続けた。
毎日毎日、自分の疲れを隠しながら、多くの人たちを助けた。
それは人々のためでもあり、自分自身のためでもある。
この騒動をきっかけに、私の名前は国中に広まるだろう。
目標に一歩前進した気分だ。
その後は王城でパーティーが開かれた。
カリナとサーシャも誘ったけど、自分たちは良いと断られてしまった。
彼女たちなりに気を遣ってくれたみたいだ。
「随分と落ち着ているな、聖女様」
「ハミル」
「ここではハミル王子、もしくは殿下と呼んでくれ」
「あっ、申し訳ありません。ハミル王子」
パーティー会場のベランダで、私が黄昏手いるとハミルが声をかけてくれた。
偉い人との話とか、王様との初対面も終えて、少し疲れている。
「少し場所を移そうか?」
「はい」
ハミルはそんな私を見て気を利かせて、パーティー会場をこっそり抜け出した。
主役がいないのは問題だと思うけど、大人同士で難しい話に花を咲かせているし、きっと大丈夫だと思う。
彼に手を引かれて向かったのは、王城内にある小さな噴水だった。
「ここは普段からあまり人がこない」
「何だかハミルが好きそうな場所だね」
「よくわかったな。落ち着けるからここは好きだ」
ハミルがちょこんと腰をおろし、私も隣に座る。
「落ち着いてるって?」
「ん? ああ、そう見えたけどな。王族や貴族に囲まれても堂々としているし、素直に驚いたよ」
「それはもちろん、前々から経験は豊富だから」
「前にいた国か」
「うん。でもこの国の方がずっと好きだよ」
「はっはは、嬉しい限りだ」
ハミルは夜空を見上げる。
「思えば最初から、お前は堂々としていたな」
「あの時は……ハミルが王子だって知らなかったからだよ」
「だとしても、初対面の男に悪態をつけるなんて中々だぞ?」
「わ、忘れてほしいな」
「忘れないさ。あれがきっかけで、お前を気に入ったんだから」
ハミルの手が私の手に触れる。
夜空下で思い出すのは、初めて出会ったときの思い出。
そう、あれはまだ私たち姉妹がクレンベルにきたばかりの頃だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
私は一人で街を歩いていた。
目的はお仕事探し。
この街に来て生活していくためにはお金がいる。
妹二人がやりたいことを見つけている中、私だけが定まっていない。
少し焦りを感じていたのは確かだ。
「どうしようかな」
独り言も出てしまう。
仕事を探すといっても、何が自分に向いているのかわからない。
二人みたいにやりたいことがハッキリしていたら、探すのも楽だったかな。
「とりあえず探すしかないわね」
そう自分に言い聞かせ、目についたお店に声をかける。
飲食店、アイテムショップ、服の仕立て屋さん。
色々なお店があって、見た目でよさそうだと思った所に入る。
姉妹の中でもしっかりしている方だし、きっと大丈夫。
そう思っていた私を、現実が突き落とす。
「ウチで働きたいかぁ~ ごめんね、人手は足りてるんだよ」
「そ、そうなんですね」
丁寧に断られたり。
「あまり見かけない子だね? 」
「えっと、つい最近こっちに引っ越してきたばかりで」
「そうなんだ。う~ん、ちなみに経験者?」
「いえ……」
「そっか~ 経験者以外は申し訳ないけど」
思った通りにいかない。
簡単に仕事くらい見つかると思っていた。
甘い考えだっと知るには、少し遅かったのかもしれない。
その後も何件か回ったけど、どこも丁寧に断られてしまった。
酷い言葉をかけられない時点で、この街の人たちは優しいのだと思う。
それでも……
「はぁ~」
ため息は出るよ。
「でかいため息だな~」
「えっ、誰!?」
どこからか声がして、私は立ち上がる。
聞こえた方向には壁があって、そこからひょこっと顔を出したのは、銀色の髪が美しい青年だった。
思わず見惚れて、足の力が抜けてしまう。
「あっ」
「危ない!」
後ろへ倒れそうになった私を、彼は咄嗟に飛び出して助けてくれた。
少し遅くて、彼は膝をついている。
「ったく、いきなりドジは勘弁してくれ」
「ありがとう……」
「どういたしまして。近くで見ても、綺麗な髪だな」
それはこっちのセリフだと言いたい。
顔立ちから全て、本物の王子様みたいだと思った。
後に彼が王子様みたい、じゃないと知る。
彼は初めから変わらない。
王子様らしくて、まっすぐで、格好良くて。
でも――
「瞳も綺麗だな。透き通った空みたいだ」
「えっ、あの……」
「ん?」
「か、顔が近い」
「ぶっ!」
距離感を掴むことは苦手なのかな?
多くの人たちが集まっていた。
見つめる先は一つ。
王族たちが並ぶ位置に、そうでない者が立っている。
それは快挙であり、栄誉であり、私が待ち望んでいたものだった。
「敬愛なる国民諸君! 恐ろしき病は本日をもって根絶された!」
国王様が民衆に告げる。
最初の発見から約一か月半。
新種のウイルスによる感染症拡大は、見事に終結を迎えた。
流行の期間は例年と変わらない。
だけど、その規模と被害は例年の倍以上だった。
当初の予想では、半年以上続くのではないかと言われていたほどだった。
それを一月半で押さえられたのは、多くの人々の努力があってこそ。
それから――
「此度で一番の働きを見せた者をここに! 聖女アイラ、彼女こそ救国の乙女である!」
歓声が沸き起こったのが、遠く離れたここまで届く。
たくさんの人たちが私の名前を叫んでいた。
隣には国王様と一緒に、ハミルの姿もある。
あまり嬉しくない懐かしさを感じる光景だけど、今はそこまで嫌じゃない。
ハミルに頼まれてから今日まで、私は聖女として人々を癒し続けた。
毎日毎日、自分の疲れを隠しながら、多くの人たちを助けた。
それは人々のためでもあり、自分自身のためでもある。
この騒動をきっかけに、私の名前は国中に広まるだろう。
目標に一歩前進した気分だ。
その後は王城でパーティーが開かれた。
カリナとサーシャも誘ったけど、自分たちは良いと断られてしまった。
彼女たちなりに気を遣ってくれたみたいだ。
「随分と落ち着ているな、聖女様」
「ハミル」
「ここではハミル王子、もしくは殿下と呼んでくれ」
「あっ、申し訳ありません。ハミル王子」
パーティー会場のベランダで、私が黄昏手いるとハミルが声をかけてくれた。
偉い人との話とか、王様との初対面も終えて、少し疲れている。
「少し場所を移そうか?」
「はい」
ハミルはそんな私を見て気を利かせて、パーティー会場をこっそり抜け出した。
主役がいないのは問題だと思うけど、大人同士で難しい話に花を咲かせているし、きっと大丈夫だと思う。
彼に手を引かれて向かったのは、王城内にある小さな噴水だった。
「ここは普段からあまり人がこない」
「何だかハミルが好きそうな場所だね」
「よくわかったな。落ち着けるからここは好きだ」
ハミルがちょこんと腰をおろし、私も隣に座る。
「落ち着いてるって?」
「ん? ああ、そう見えたけどな。王族や貴族に囲まれても堂々としているし、素直に驚いたよ」
「それはもちろん、前々から経験は豊富だから」
「前にいた国か」
「うん。でもこの国の方がずっと好きだよ」
「はっはは、嬉しい限りだ」
ハミルは夜空を見上げる。
「思えば最初から、お前は堂々としていたな」
「あの時は……ハミルが王子だって知らなかったからだよ」
「だとしても、初対面の男に悪態をつけるなんて中々だぞ?」
「わ、忘れてほしいな」
「忘れないさ。あれがきっかけで、お前を気に入ったんだから」
ハミルの手が私の手に触れる。
夜空下で思い出すのは、初めて出会ったときの思い出。
そう、あれはまだ私たち姉妹がクレンベルにきたばかりの頃だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
私は一人で街を歩いていた。
目的はお仕事探し。
この街に来て生活していくためにはお金がいる。
妹二人がやりたいことを見つけている中、私だけが定まっていない。
少し焦りを感じていたのは確かだ。
「どうしようかな」
独り言も出てしまう。
仕事を探すといっても、何が自分に向いているのかわからない。
二人みたいにやりたいことがハッキリしていたら、探すのも楽だったかな。
「とりあえず探すしかないわね」
そう自分に言い聞かせ、目についたお店に声をかける。
飲食店、アイテムショップ、服の仕立て屋さん。
色々なお店があって、見た目でよさそうだと思った所に入る。
姉妹の中でもしっかりしている方だし、きっと大丈夫。
そう思っていた私を、現実が突き落とす。
「ウチで働きたいかぁ~ ごめんね、人手は足りてるんだよ」
「そ、そうなんですね」
丁寧に断られたり。
「あまり見かけない子だね? 」
「えっと、つい最近こっちに引っ越してきたばかりで」
「そうなんだ。う~ん、ちなみに経験者?」
「いえ……」
「そっか~ 経験者以外は申し訳ないけど」
思った通りにいかない。
簡単に仕事くらい見つかると思っていた。
甘い考えだっと知るには、少し遅かったのかもしれない。
その後も何件か回ったけど、どこも丁寧に断られてしまった。
酷い言葉をかけられない時点で、この街の人たちは優しいのだと思う。
それでも……
「はぁ~」
ため息は出るよ。
「でかいため息だな~」
「えっ、誰!?」
どこからか声がして、私は立ち上がる。
聞こえた方向には壁があって、そこからひょこっと顔を出したのは、銀色の髪が美しい青年だった。
思わず見惚れて、足の力が抜けてしまう。
「あっ」
「危ない!」
後ろへ倒れそうになった私を、彼は咄嗟に飛び出して助けてくれた。
少し遅くて、彼は膝をついている。
「ったく、いきなりドジは勘弁してくれ」
「ありがとう……」
「どういたしまして。近くで見ても、綺麗な髪だな」
それはこっちのセリフだと言いたい。
顔立ちから全て、本物の王子様みたいだと思った。
後に彼が王子様みたい、じゃないと知る。
彼は初めから変わらない。
王子様らしくて、まっすぐで、格好良くて。
でも――
「瞳も綺麗だな。透き通った空みたいだ」
「えっ、あの……」
「ん?」
「か、顔が近い」
「ぶっ!」
距離感を掴むことは苦手なのかな?