聖女三姉妹 ~本物は一人、偽物二人は出て行け? じゃあ三人で出て行きますね~

 王城から見下ろす景色は、まさに圧巻の一言につきる。
 多くの人たちが集まっていた。
 見つめる先は一つ。
 王族たちが並ぶ位置に、そうでない者が立っている。
 それは快挙であり、栄誉であり、私が待ち望んでいたものだった。

「敬愛なる国民諸君! 恐ろしき病は本日をもって根絶された!」

 国王様が民衆に告げる。
 最初の発見から約一か月半。
 新種のウイルスによる感染症拡大は、見事に終結を迎えた。
 流行の期間は例年と変わらない。
 だけど、その規模と被害は例年の倍以上だった。
 当初の予想では、半年以上続くのではないかと言われていたほどだった。
 それを一月半で押さえられたのは、多くの人々の努力があってこそ。

 それから――

「此度で一番の働きを見せた者をここに! 聖女アイラ、彼女こそ救国の乙女である!」

 歓声が沸き起こったのが、遠く離れたここまで届く。
 たくさんの人たちが私の名前を叫んでいた。
 隣には国王様と一緒に、ハミルの姿もある。
 あまり嬉しくない懐かしさを感じる光景だけど、今はそこまで嫌じゃない。

 ハミルに頼まれてから今日まで、私は聖女として人々を癒し続けた。
 毎日毎日、自分の疲れを隠しながら、多くの人たちを助けた。
 それは人々のためでもあり、自分自身のためでもある。 
 この騒動をきっかけに、私の名前は国中に広まるだろう。
 目標に一歩前進した気分だ。

 その後は王城でパーティーが開かれた。
 カリナとサーシャも誘ったけど、自分たちは良いと断られてしまった。
 彼女たちなりに気を遣ってくれたみたいだ。

「随分と落ち着ているな、聖女様」
「ハミル」
「ここではハミル王子、もしくは殿下と呼んでくれ」
「あっ、申し訳ありません。ハミル王子」

 パーティー会場のベランダで、私が黄昏手いるとハミルが声をかけてくれた。
 偉い人との話とか、王様との初対面も終えて、少し疲れている。

「少し場所を移そうか?」
「はい」

 ハミルはそんな私を見て気を利かせて、パーティー会場をこっそり抜け出した。
 主役がいないのは問題だと思うけど、大人同士で難しい話に花を咲かせているし、きっと大丈夫だと思う。
 彼に手を引かれて向かったのは、王城内にある小さな噴水だった。

「ここは普段からあまり人がこない」
「何だかハミルが好きそうな場所だね」
「よくわかったな。落ち着けるからここは好きだ」

 ハミルがちょこんと腰をおろし、私も隣に座る。

「落ち着いてるって?」
「ん? ああ、そう見えたけどな。王族や貴族に囲まれても堂々としているし、素直に驚いたよ」
「それはもちろん、前々から経験は豊富だから」
「前にいた国か」
「うん。でもこの国の方がずっと好きだよ」
「はっはは、嬉しい限りだ」

 ハミルは夜空を見上げる。

「思えば最初から、お前は堂々としていたな」
「あの時は……ハミルが王子だって知らなかったからだよ」
「だとしても、初対面の男に悪態をつけるなんて中々だぞ?」
「わ、忘れてほしいな」
「忘れないさ。あれがきっかけで、お前を気に入ったんだから」

 ハミルの手が私の手に触れる。
 夜空下で思い出すのは、初めて出会ったときの思い出。
 そう、あれはまだ私たち姉妹がクレンベルにきたばかりの頃だった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 私は一人で街を歩いていた。
 目的はお仕事探し。
 この街に来て生活していくためにはお金がいる。
 妹二人がやりたいことを見つけている中、私だけが定まっていない。
 少し焦りを感じていたのは確かだ。

「どうしようかな」

 独り言も出てしまう。
 仕事を探すといっても、何が自分に向いているのかわからない。
 二人みたいにやりたいことがハッキリしていたら、探すのも楽だったかな。

「とりあえず探すしかないわね」

 そう自分に言い聞かせ、目についたお店に声をかける。
 飲食店、アイテムショップ、服の仕立て屋さん。
 色々なお店があって、見た目でよさそうだと思った所に入る。
 姉妹の中でもしっかりしている方だし、きっと大丈夫。
 そう思っていた私を、現実が突き落とす。

「ウチで働きたいかぁ~ ごめんね、人手は足りてるんだよ」
「そ、そうなんですね」

 丁寧に断られたり。

「あまり見かけない子だね? 」
「えっと、つい最近こっちに引っ越してきたばかりで」
「そうなんだ。う~ん、ちなみに経験者?」
「いえ……」
「そっか~ 経験者以外は申し訳ないけど」

 思った通りにいかない。
 簡単に仕事くらい見つかると思っていた。
 甘い考えだっと知るには、少し遅かったのかもしれない。
 その後も何件か回ったけど、どこも丁寧に断られてしまった。
 酷い言葉をかけられない時点で、この街の人たちは優しいのだと思う。
 それでも……

「はぁ~」

 ため息は出るよ。

「でかいため息だな~」
「えっ、誰!?」

 どこからか声がして、私は立ち上がる。
 聞こえた方向には壁があって、そこからひょこっと顔を出したのは、銀色の髪が美しい青年だった。
 思わず見惚れて、足の力が抜けてしまう。

「あっ」
「危ない!」

 後ろへ倒れそうになった私を、彼は咄嗟に飛び出して助けてくれた。
 少し遅くて、彼は膝をついている。

「ったく、いきなりドジは勘弁してくれ」
「ありがとう……」
「どういたしまして。近くで見ても、綺麗な髪だな」

 それはこっちのセリフだと言いたい。
 顔立ちから全て、本物の王子様みたいだと思った。
 後に彼が王子様みたい、じゃないと知る。
 彼は初めから変わらない。
 王子様らしくて、まっすぐで、格好良くて。
 でも――

「瞳も綺麗だな。透き通った空みたいだ」
「えっ、あの……」
「ん?」
「か、顔が近い」
「ぶっ!」

 距離感を掴むことは苦手なのかな?
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